七色星団

おみおくりの作法の七色星団のレビュー・感想・評価

おみおくりの作法(2013年製作の映画)
4.0
僕は主人公であるジョン・メイというキャラクターを凄く気に入っている。
観客を笑わせようとしていないのに、彼の立ち居振る舞いはどこかユーモラスでクスッときてしまう。
信号待ちの交差点での彼の立ち姿なんて凄いツボっちゃった笑

彼は仕事・プライベートを問わず、習慣化された生活リズムの中で生きている。
それは例えば、交差点では信号機の有無に関わらず、”右見て左見て、もう一回右見て”を常に実践していたり、あるべき場所にきっちりと揃えられた仕事道具や書類もそうだし、それは身の回りの全ての物に当てはまる。

傍から見ると窮屈そうに見えるそれらの習慣も、丹念に描写された彼の日常を見ていくと不思議と縛られているような印象は受けないのがジョン・メイというキャラクターの面白さ。
画面上の彼が真面目であればあるほど笑えるのはこれ如何に(笑)

上司の
「弔う者がいなければ葬儀など必要ない。残された者にしても誰もが葬儀や悲しみを知りたいとは思わない。そう思わないか?」
という問いかけにも

「そんな風に思ったことはありません。」

とジョンが返した真っ正直な言葉の切れ味の良さよ。

確かに"死を悼む"というにはあまりにも奔放過ぎて、素直に送り出すことが出来ない人がいるのも事実。でもその人の死を知らず過去の記憶に蓋をして過ごす日々と、死を知って受け止めて日々を過ごすのでは、その後の人生も違うものになるのではないかな。
僕にもそういう厄介な人がいるし、死を知れば恨みごとの一つや二つ言って、そうして故人に対して前を向いてお別れしたいですから。

「死者の思いなど存在しないんだ。」
逆にこの言葉には反論するほどのものを持ち合わせていないんだよなぁ。僕もどちらかと言うと、あの嫌な上司寄りに立ってると言えるので。
ただ、大切な人を亡くした人達と接して故人の話をしてると、こんな僕でさえも故人の姿が見えて、言葉が聴こえたような気もするから不思議。

物語の後半、永遠に続くかと思われたジョンの生活にある変化が訪れる。そして、それをきっかけにジョン自身にも変化が。

一歩踏み出すことで見えた新しい世界。

それこそ道路の横断を信号機に頼らず、自分の判断で渡っちゃうみたいな小さな変化。
しかし、まさにその変化がジョンの運命を大きく変えてしまったのは何という皮肉。

ジョンが最後に担当した案件と、ジョン自身との対比に涙が止まらなかったなぁ。
人生とはかくも美しく、なんと残酷なことか。

最後に現れた彼等に急過ぎて戸惑う人も多いかもだけど、ジョンは"死者の思い"に寄って立っていた人だから、あのラストは必然だと思ってます。
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