べえさあ

セッションのべえさあのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
4.5
“There are no two words in the English language more harmful than 'Good job.”
「英語で最も危険な言葉は“Good job.”だ」

偉大なジャズドラマーを目指しアメリカ最高峰の音楽学校に通うアンドリューが鬼教師フレッチャーからの罵声と暴力に耐えながらも必死に音楽家としての道に食らいつこうとする。心身ともに追い込まれいくアンドリューはフレッチャーの指導に耐え続けることはできるのか?フレッチャーの目的は?

運とセンスも求められる世界では、努力をしても必ず報われるわけではない。しかし、自分が意図した方向とは違う方向に成功する事も多い。努力をすればそのチャンスに気づく感度が上がる。

この映画を観た後に全員が気になることは、「ラストシーンまでの展開はフレッチャーの計算だったのか?それともただの復讐だったのか?」だと思う。
この話は結局なんだったのか、様々なレビューを拝見したところ、大きくは以下3つの意見に分かれている。
・最後まで諦めなかった少年のサクセス映画
・演奏者と指導者双方の視点から描いた葛藤劇
・音楽家同士のセッションでもなんでもないただのSM映画
色々な見方ができる話であるためどれも納得の意見だが、私は「1つの道に人生を懸けている人が経験するであろう苦しみをリアルに表現した映画」と監督の過去の経験も考慮に入れて解釈してみることにした。

監督のデイミアン・チャゼルは当時28歳で製作費もわずか3億円で本作を作りあげたことで注目を浴びたが、「セッション」の物語がチャゼル氏の実体験からインスパイアされていることでも話題を呼んだ。チャゼル氏はかつてジャズドラムに人生を捧げる日々を送っていたが、出口の見えない道に耐えられなくなり断念している。実際の指導者はフレッチャー程スパルタではなかったみたいだが、その時の精神状態はアンドリューを通じてリアルに描かれている。劇中に登場する2曲「ウィップラッシュ」と「キャラバン」もチャゼル氏が実際に演奏していた思い出の楽曲で、本作で使用するにあたりライセンスを取得している。

元々意図していなかった展開だったかもしれないが、チャゼル氏がジャズドラマーとしての道からシフトしたからこそ「セッション」という映画が世に誕生し、今では天才フィルムメーカーとして注目され活躍している。劇中では、肉体的にも精神的にも疲弊し、狂ってしまったアンドリューと自分がやり続けたかったことをできなくなったフレッチャーはお互いに潰し合い、空回りする展開となったが、結果的にラストのあのシーンにまで発展した。私はフレッチャーの復讐には深い計画や意図はなく、誰も予期していなかった流れで全てが結びついたラストだったのだと考えることにしたが、この予想外の流れは監督の人生と被るところがあるようにもみえる。

監督自身の背景を知り、「セッション」について初めて観た後とはまた違った上記の受け取り方に自分なりに落とし込むことができました。しかし、ラストシーン以外にも、消えたフォルダーの行方・フレッチャーがアンドリューに拘った理由・亡くなった生徒について等気になる細かい点はいくつもあり、全てをうまく繋げようとするとまた色々と考えさせられてしまいます(笑)。

観る人によって捉え方が全く違い、様々な考察ができる緻密な脚本で作られた本当に面白い作品だと思います!