櫻イミト

赤い唇/闇の乙女の櫻イミトのレビュー・感想・評価

赤い唇/闇の乙女(1971年製作の映画)
3.5
ベルギーの幻想映画監督として知られるハリー・クメールの耽美ホラーなカルト作。主演は「去年マリエンバードで」(1961)のデルフィーヌ・セイリグ。音楽は「冒険者たち」(1967)のフランソワ・ド・ルーベ。

新婚の若い二人がベルギーのリゾートホテルを訪れる。同日、そこにエリーザベト・バートリ(デルフィーヌ・セイリグ)と名乗る妖しい伯爵夫人が侍女と共に宿泊する。ホテルのフロントマンは「40年前に同名のそっくりな女性が宿泊した」と驚くが、夫人は「それは母かもしれない」と話を濁す。やがてカップルは禁断の世界に巻き込まれていく。。。

耽美を強調した吸血鬼映画だった。ロケーションを美しく切り取った撮影、赤、白、黒の衣装配色、そして主演デルフィーヌ・セイリグの圧倒的な存在感により、妖しくミステリアスなムードは抜群。流血シーンは僅かだが、吸血鬼サスペンスとしての緊張感は満たされていた。

しかし多くの謎を残したままの雑な終わり方が非常に残念だった。まずは新婚夫の謎。母親への結婚報告を渋る理由、殺人現場への異様な関心の理由、訳ありげな父親の素性(同性愛者か吸血鬼?)。そして殺人事件を探る元刑事の謎。ホテルフロントマンとの意味ありげなアイコンタクトの意味。死体遺棄現場を目撃しているのに無対処の理由。これら全てが放置されたまま映画は終幕してしまう。アート映画ではなく商業映画の文法で作られているので、これは難ありと言わざるを得ない。

耽美的作風と女性同性愛要素があることから海外では名作「血とバラ」(1961)と並び称されているとの事。女性と男性の性差と精神的支配をテーマにしているのも大きな共通点であり魅力だと思う。しかし個人的には脚本の難が捨て置けず、大変惜しい印象が残る一本だった。

※主人公の役名バートリ・エルジェーベトは、中世に実在し「血の伯爵夫人」と呼ばれたハンガリー王国の貴族の名前。史上名高い連続殺人者とされ、吸血鬼伝説のモデルともなっている。
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