近藤真弥

コロニアの近藤真弥のレビュー・感想・評価

コロニア(2015年製作の映画)
3.7
かつて、「男女同数が死ぬホラーであっても、男はあっさり殺され、女はストレスと苦痛と恐怖にさらされながらじっくり殺される」と指摘したのは、キャロル・J.クローヴァーでした。確かに、古典と呼ばれるホラー、あるいはホラーの要素が色濃い映画を観ると、キャロルの指摘は妥当性が高いと思えなくもない。たとえば『サイコ』の有名なシャワーシーンはわかりやすい例として挙げられるし、最近では『クリーピー 偽りの隣人』の竹内結子もそうでしたね。こうした、“犠牲者となるのはか弱い女性”というクリシェには、“女性はこういうものだ”みたいなステレオタイプを見いだせます。いわゆるジェンダーロールというやつです。

エマ・ワトソン主演の『コロニア』が面白いのは、従来のジェンダーロールをことごとくぶち壊している点です。ラヴシーンでも積極的にリードするのはレナ(エマ・ワトソン)だし、カルト集団に捕まった彼氏を救うために奮闘するときも、レナはおろおろした姿を見せない。むしろおろおろするのは彼氏のほうで、恐怖やストレスにさらされることが多いのも彼氏です。レナがカルト集団の教皇に暴行されるシーンもあるのですが、そのときもレナは反抗心むき出しの目つきを崩さない。泣き喚いてパニックになったり、恐怖に顔を歪めることもありません。

こうした従来のジェンダーロールに当てはまらない映画は、ここ最近増えてきたように感じます。具体的には『フィフス・ウェイヴ』や『10 クローバーフィールド・レーン』ですが、『コロニア』はより徹底的にそれをおこなっている。このような作品になったのは、フェミニストとしても知られるエマ・ワトソンの背景も少なからず影響してるでしょう。

また、女性差別的態度を隠さない教皇が、大使館のお偉いさんと繋がっているのも興味深い点です。教皇と大使館のお偉いさんが握手するシーンなんかは、男性優位主義と権力は深く結びついているのだということを暗に示してるようにも見える。

物語の展開はベタなんですが、一定の娯楽性はあるので、エンターテイメントとしても及第点をあげられる。傑作ではないけれど、随所で挑戦的な姿勢が見られる良作です。
近藤真弥

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