黒田隆憲

誰のせいでもないの黒田隆憲のネタバレレビュー・内容・結末

誰のせいでもない(2015年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

雪深いカナダで、ソリで飛び出してきた2人の子供のうちの1人を車で轢いてしまい、その後の人生が大きく変わってしまう主人公トマス(ジェームズ・フランコ)と、生き残った方の子供クリストファー(ロバート・ネイラー)、子供の母親ケイト(シャルロット・ゲンスブール)の10年を追った物語。

鳴かず飛ばずだった作家のトマスが、事故後の苦しみから“作家としては”成功したり、一方ケイトは事故のショックから立ち直れず、仕事も思うようにいかなくなって家を売らなければならなくなったり、クリストファーはクリストファーで、自分だけ生き残ったという自責の念と、作家としてのトマスに憧れながらも、自分たち一家をずっと苦しめ続ける彼に複雑な感情を募らせたり。

トマスの恋人だったサラ(レイチェル・マクアダムス)も、価値観の違いから一度はトマスと別れを決意するも、事故で自暴自棄になった彼を献身的に支えることになり、それでも結局は上手くいかずに破局。苦しみ抜いた末に別の男性と結婚し子供を2人授かるが、「子供は欲しくない」と言っていたくせに子連れの女性と結婚したトマスのことを、今も許せずにいる。また、トマスの父親(パトリック・ボーショー)は、長年連れ添った妻と死別するが、悠々自適の余生を過ごしながら息子トマスに「あんな退屈な女とは、もっと早く別れるべきだった」と口にする……。

生きていれば、人は必ず誰かを傷つけることになるし、「なんで自分だけこんな目に……」と思っていても、相手は想像もできないような「地獄」を抱えているのかも知れない。ある立場から見れば「最低のクソ野郎」でも、他の人にとっては「かけがえのない存在」だったりもする。ほんと、邦題の通り『誰のせいでもない』としか言いようのない「ある人たちの人生」を、ヴェンダースらしく淡々と静かに描いていく。

最後、クリストファーとトマスがハグして別れたのが良かった。
黒田隆憲

黒田隆憲