説明もなく、セリフも少ない。少年の目を通して、静かに紛争の不条理さを伝えるイランの作品。
イランとイラクの国境にある川の廃船に住む少年。映像は、彼の生きるための営みを追う。けっこう過酷なルーティン。すぐそこは国境で、見つかったら撃たれてしまう。
少年はなぜ一人なのか、なぜそこに住むのかを想像すると切ない。
ある日、一人の侵入者の少年が船にやってくる。言葉は通じない。でも、敵国同士ではあるものの、少しずつ打ち解けてゆく。
さらに、別の侵入者が船に入り込み、暮らすことになる。言葉が通じず、全員が敵国でありながらも穏やかに過ごす日々。そして…
少年の優しさが生んだ船の中のボーダーレス。
どの国にも属さなければ、人は人と向き合い、つながりあうことができるのかもしれない。
たとえ敵国の人間だとしても、孤独でいるよりは誰かと寄り添いたいと思うのもまた人間。
主人公の少年は演技経験がないそうだけど、台詞も少ないのにすごい存在感。
彼の目の先に緊張を感じ、見続けてしまった。
紛争の意味を問う「みかんの丘」を彷彿させる良作でした。