このレビューはネタバレを含みます
ある幼少期のトラウマをきっかけに声を失った少女、成瀬順の物語。
メインの登場人物は
揚羽高校2-2担任「しまんちゅ」の気まぐれで、ふれあい交流委員に選ばれてしまった少女とクラスメート3人。
幼少期のトラウマのせいで気持ちを声にして伝えようとするとお腹が痛くなってしまう順。
同じくふれあい交流委員になった坂上拓実との会話をきっかけに、歌ならば気持ちを伝えられることに気づき、ふれあい交流会の出し物としてミュージカルをすることに。
歌のおかげで自分の気持ちを徐々に出せるようになった順。自分の心を開くきっかけとなった拓実を慕うようになっていた。
ミュージカルの準備も着々と進んで迎えた本番前日、拓実には順とは別の好きな人がいることを偶然知る。
他人に心を開くことでまたしても傷ついてしまった順。ミュージカル当日、主役にもかかわらずミュージカルには出られないと逃げ出してしまう。
ミュージカルを残りのクラスメートに託し、順を探しに行く拓実。
とうとう順を見つけ出した拓実。見つけ出した場所は、順が声を失うトラウマを抱えるきっかけとなった場所だった。
心を閉ざす順に対し、拓実は「もっとお前の本音を聞きたい」と語りかける。拓実もまた、本音を言うことにトラウマを抱えていたのだった。
ありのままの本音をぶちまける順。最後には拓実を好きだという気持ちもぶつける。
全ての本音を受け入れたうえで、拓実は順の告白を正面から受け止め、そして断る。
主役不在でミュージカルを続けるクラスメートのもとへ戻る順。気持ちを歌に乗せて高らかに歌い上げ、ミュージカルは大団円を迎えたのであった。
大筋はこんなところですが、主人公の少女である順のストーリーと並ぶ形で他の登場人物のストーリーも進んでいきます。
それぞれが本音を言うことにトラウマを抱え、それを乗り越えていく姿が描かれていますが、必ずしもそれは綺麗な形では描かれていません。
セリフの言い回しにも「ら抜き言葉」や「ってゆーか」などの表現に表れているように、ありのままの高校生がこの映画では描かれています。
主人公が言葉にできない自分の気持ちを伝えるためにメール機能を使うのもその一つでしょうか。
主人公が拓実にありのままの気持ちをぶつけるシーン、罵詈雑言の嵐なのがリアルでした。綺麗な映画で終わらせないところが憎いなと。
トラウマを「玉子(卵ではなく)の呪い」と表現していましたが、その殻を作り出していたのは紛れもなく自分自身であったことに主人公は気づきます。
僕たちは「本音を極力表に出さず、建前を使いこなすこと」を「オトナになること」だと教わってきました。
そんな「オトナ」になった僕たちには非常に耳が痛く、そして刺さる作品でした。
沈黙は金、雄弁は銀という言葉で思考停止している人に、ぜひ観てもらいたい作品です。