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イロイロ ぬくもりの記憶のmemoのレビュー・感想・評価

イロイロ ぬくもりの記憶(2013年製作の映画)
4.4
日々の生活に手一杯で(両親に自覚があるのかわからないけど)息子のことをちゃんと気にかけて向き合ってあげる時間がない。親子の間で、夫婦の間で、家族の間で、心に余裕のある状態でゆっくりとコミュニケーションすることがない。だから観ていてずっとしんどかった。だけど、家族もテリーも、複雑な感情や問題を抱えながら日々を生きているひとりの人間として、また不況の影響を受けながら生活する家族の姿として、豊かに丁寧に描かれており、人間へのやさしい眼差しを感じる誠実な作りがよい。

学校でも家でも問題児扱いのジャールーが初めは反抗しながらもテリーに心を開いていく様子がよい。2人が楽しそうにしている場面だけ、ふっと息をつくことができる。ちょっかい出して、笑い合って、じゃれ合う。気にかけてほしい大人に見てもらえず叱られてばかりだった頃、彼女がくれた心の安らぎは、大人になっても忘れられないぬくもりだったんだろうね。監督の子供時代の体験が元になっていて、英題「ILO ILO」はメイドの出身フィリピン・イロイロ市からつけたらしい。

唯一の習慣とも言える宝くじの結果をまとめたノートにかける純粋な願い。さよならのときでさえ素直に思いを伝えられないジャールーが最後にずっとからかっていたテリーのにおいがする髪の毛を残す。素直になれないなりの必死な姿がいじらしく切ない。
また、この家族の中で母親だけはテリーのこと、メイドだからか、フィリピン人だからか、見下しているような印象を受ける。無意識に抱いていたであろう差別意識が母としての嫉妬と絡み合って大きくなったり、ふと目に入った新興宗教の嘘くさい言葉にハマったり、限界の中でも何とか自分を保とうとしている様がリアルで苦しかった。
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