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日本のいちばん長い日のKUBOのレビュー・感想・評価

日本のいちばん長い日(2015年製作の映画)
3.9
ずっと見れてなかった夏映画のひとつ、原田眞人版「日本のいちばん長い日」をやっと見てきました。公開日からだいぶ経ってシネコンでの上映回数もずいぶん減った中での平日午後の新宿ピカデリーは、それでも6割ほどの入り。なかなかの人気だ。中高年以上ばかりかと思った観客層は意外にも若い人も多い。内ひとりの若者がポップコーンとドリンクを全部ぶちまけて大惨事に(^^)

さて、この作品は60年代の岡本喜八作品のリメイク。ほぼ50年経ってのリメイクの出来は如何にと、原田眞人ファンとしては期待と不安が半々。

一番大きな違いが、昭和天皇を描いたこと。岡本喜八版では遠目に後ろ姿のみ、という扱いであったものを今回は本木雅弘が演じている。60年代では一俳優が演ずるのは畏れ多いことだったに違いないが、昭和天皇が自らの言葉で語るシーンはリメイクしてよかった点のひとつだろう。

逆にその他の登場人物がどうしても岡本喜八版と比べてしまう。物語の中心となる阿南陸軍大臣は現代では最高の俳優のひとりであろう役所広司が熱演しているが、比較するのが三船敏郎だけに、役所広司も役を引き受ける段階で勇気が要ったろうなぁ。どうやっても「優しそう」に見えてしまうので、悩める陸軍大臣の悩みの根幹が岡本喜八版とは違って見える。

また前作が若手将校がクーデターに走るくだりをより丁寧に描いていたが、今作ではクーデターになるまでもクーデターが失敗に終わるところも、戦闘シーンもほとんどなく淡々としている。黒沢年男の狂気を松坂桃李は越えられたか?と言うと、限りなく「?」。

それでも戦後70年の今年、これをリメイクしたことに意味がないかと言えばそうでもない。どんなに前作が昭和を代表する名優総出演の名作だったとしても、一部映画ファンを除いて今の時代に好き好んでモノクロ作品を見ようという人は少ないだろう。例え松坂桃李目当てであったとしても、若い世代にこの作品を伝える機会になるのなら素晴らしいことだ。

玉音放送途中でフェイドアウトしてしまうエンディングは余韻も少なくどうなんだろうと思うけど、オリジナル版にはなかった空襲で焼け野原になった東京をCGで見せてみたり、リメイク版としての長所もある。作品が作品なだけに、賛否あって当然だろう。
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