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アメリカン・ドリーマー 理想の代償のJIZEのレビュー・感想・評価

3.6
80年代犯罪が多発したNY都市を舞台にオイル業界に夢を託した移民男性が約30日間で理想を失っていく様を紡いだ転落サスペンス映画!!窃盗の常態化を示したオイル強奪のリアリティ追求を称賛!!実際は理想と現実に行動を阻まれ意味深な"グレイゾーンを踏み続ける男の映画"でした。同時に正統派サクセスストーリーでもなかった。主に正義や悪,成功と破滅,善玉と悪玉など主人公が幾度となく灰色な境界線上に立ち苦渋な選択を迫られる。(終盤の1箇所を除けば)過激な銃撃戦や肉弾戦も抑え気味に省略されオイルを強奪する側とオイル業界の破産を回避し奔走する側の両側にピントを合わせ物語幅に説得力を持たせたのは近年『プリズナーズ(2013年)』に匹敵する程の重厚な持ち味に感じました。また原題『A Most Violent Year』も時代背景1981年の犯罪統計史上で最も犯罪が多発した年を誇張するニュアンスに汲み取れる。今回は邦題『アメリカンドリーム 理想の代償』の方が本編と整合性が取れてるように感じましたね。要は"正しき道を選択し理想を追い続ける報いには,必ずそれ相応の代償が伴う"という執拗に観客側を解放させてくれない物語構造ではある。主演のオスカーアイザック扮するアベルの富や名声を望む姿勢でも暴力的な誇示方法でなく堅実な相手の出方を伺う方法でオイル事業の成功を切望する様も成功の代償をもがきながら支払ってるようで刹那に満ちた余韻に思える。ただマイナス意見を出せば中盤で強盗2人組と運転手が両方警察から逃亡する一連の流れやアベルの潔白性を作品側が誇示しすぎた事は作品の演出が過剰に効きすぎたよう感じました。要は主に後者の場合,世間一般で称される(人道的に)エグい部分を美化せずエゴ剥き出しに描いても良かったんじゃないかと。若干綺麗事のように取れる描写も多数あったので。あと主役アベルと妻アナのアベルは正しい方法で金儲けを企む精神で,一方のアナは結果の下には必ず犠牲がつきもの,という手段を選ばない精神性の対比も実際に利益追求を望む上で業績不振などの側面を取れば善と悪が揺さ振られ独特な風味もある。最終的に作品の主題である石油の権利を巡る闘争は実際歴史の経緯を辿れば明白なんですが,石油業界の内通事情や経営者に立ち塞がる無理難題な壁を作品はリアリズムにアメリカ批判を混ぜ込み描いてました。アベルが本編で中立な立場を維持し続けた事で夢を実現させる主題そのもののメタファに成り得たのかも知れません(憶測ですが)。金儲けの裏側には複雑なしがらみが何重もの不条理な線を忍ばせ隠されてる,という事でしょう。実際一筋縄では読み解き難い話の難易度であるが娯楽性にも幾分特化した描き方なのでオイル業界を舞台にした線密に練られる珠玉サスペンスを是非お勧めします。
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