ブラッドフォード・ヤングの作り出す繊細な陰翳に冒頭部から陶然とする。現代のアメリカ映画でここまで上質な画面を年に何本観られるだろうか。
JCチャンダーは役者の芝居を捉えることを重視するタイプなので、照明に気を遣うカメラマンと組めたことは僥倖だった。決して飾らないが気品に満ちたショットが続く中、あくまでも役者たちの動きを捉えることに徹して、ある種の演出的透明性を獲得し得ているのが素晴らしい。
終盤の短めのカーチェイスは追う側のみの視点で凄まじい緊迫感を出している。途中で視界不良になる点も含めてこの場面の参照元は『マーシュランド』かもしれない。
オスカー・アイザックが余りにもアル・パチーノを意識しすぎているが、出しゃばらすことなく抑制させている点においてJCチャンダーの見事な手腕といえよう。