マクガフィン

あんのマクガフィンのレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
3.5
元ハンセン病患者の老女と、どら焼き店の店主や店を訪れる女子中学生の人間模様が描かれる人間ドラマ。原作未読。

自然風景、風や鳥やあんの音、光の描写が秀逸で、その中で展開される老女(樹木希林)と店長(永瀬正敏)のやり取りや客の女子中学生たちの会話から醸し出される軽快で微笑まし模様は、重厚なテーマを中和するバランス感覚が絶妙。断定的結論を押しつけない深く染みる作品になり、多くの情景描写は自由に生きられるということの大切さを感じる。

元ハンセン病患者という差別に巻き込まれながらも、尊厳を失わず生きようとする姿を静かに精神を解放するように熱演する樹木希林に敬服。永瀬に出会ったことで樹木希林の今まで選べなかった人生を歩むことになり、逆にそれに触れることで永瀬は人生を見直し再生していく心情の移ろいも良い。
市川悦子の帽子を脱いだだけで、状況を瞬時に把握した映画ならではの演出にゾッとする。

桜の季節に始まり桜の季節に終る作品で、序盤と終盤の桜が全く違う印象になることが作品の説得力の賜物だろう。