思えば、樹木希林を本当に凄いと思ったのは【海よりもまだ深く】が初めてだった。それ迄は若いのに老人のメイクで「ジュリーィィィ」とその満たされぬ思いを全身で表現する、変な旦那がいる面白い人という印象だったのだ。
照れ臭そうに店を訪れ、働きたい事を告げるシーン。小綺麗な服装に少女のような好奇心一杯の笑顔。
永瀬に信頼され、生き生きと餡を練る幸せそうな横顔。
隔離施設での、やつれた顔に、櫛を入れない髪。あぁこんなに凄い女優さんだったんだと今頃驚く。
辞めると決めた帰り道、バスを降りて施設にとぼとぼ帰る姿を想像する。背を丸めてとぼとぼ帰る。市原悦子が心配しないように無理に笑顔を作って見せて。