MasaichiYaguchi

怒りのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
4.1
日本の映画賞を総なめにした「悪人」の原作者・吉田修一さんと李相日監督が再びタッグを組んだ本作は、期待を違わず心にズシンと響いてくる。
ある夏の暑い日に八王子の住宅街で発生した凄絶な夫婦殺人未解決事件を起点に、千葉、東京、沖縄に現れた経歴不詳の3人の男、夫々の場所でこの男達と係わる人々のドラマが、サスペンスタッチの群像劇として繰り広げられていく。
この群像劇を演じるのは、主演の渡辺謙さんをはじめとして、宮崎あおいさん、松山ケンイチさん、妻夫木聡さん、綾野剛さん、広瀬すずさん、森山未來さん等、何れも主演クラスの錚々たる顔触れで、作品にあるピーンと張った緊張感が最後まで緩まない。
そして張り詰めた展開の中で登場人物達の揺れ動く感情を、時に強く、時に優しく寄り添うように坂本龍一さんの音楽が表現する。
タイトルになっている「怒り」は、殺人事件現場に残された血文字を意味しているのと同時に、登場人物達が生きていく中で抱える「怒り」、それは世の中の不条理からくるものであったり、偏見や差別からくるものであったりする。
そして、本作でもう一つ柱になっているのは、「信じる」ことの不確かさだと思う。
謎めいた3人の男が醸し出すあやふやさや危なさが、周りの人々を疑心暗鬼に陥らせる。
この3人の中に殺人犯はいるのか、そして夫々の男達はどのような結末を迎えるのか?
我々はその結末と向き合った時、如何に人を「信じる」ことが難しいかを痛感する。
人間不信の現代社会に対し、この映画は後悔や慟哭と共に「怒り」を描いていると思う。
そのような世の中でも生きていかなくてはならない我々に、本作は最後に一条の光を投げ掛けてくれているような気がする。