グラッデン

シン・ゴジラのグラッデンのレビュー・感想・評価

シン・ゴジラ(2016年製作の映画)
4.6
『ゴジラ』と言えば冬休み映画のイメージが強いですね。本作では、地元にもゴジラが上陸するということもあり、公開前から非常に楽しみにしておりました。今回はダラダラとあらすじとかは書かず、本作を観て感じたことを率直にまとめました。

おそらく私だけではないと思うのですが、本作を観ながら、第1作目の『ゴジラ』のことを思い出しました。最初の『ゴジラ』が公開されたのは1954年。水爆実験から生まれたゴジラが、戦後間もない東京を再び火の海に変えてしまいます。
先日、テレビで見ていて考えたことですが、戦後70年を経過した現代を生きる自分はともかく、公開当時にこの映画を見ていた人たちからすると、避難や火事の風景というのは身近にあった戦争の記憶を思い返すような感覚があったかもしれません。

一方、2016年の『シン・ゴジラ』を鑑賞した私たちは、2011年に発生した東日本大震災、本年4月に発生した熊本地震がそうであるように、近年大きな自然災害を経験しました。テレビ等の映像で何度も目にした地震・津波の脅威、自身も経験した交通機関が麻痺した都市部の混乱、何よりも震災直後に感じた日々の生活の底知れぬ不安、そういったものが自然と思い出されました。
多くの時間が割かれた会議の描写について、お馴染みの音楽を含めて、庵野監督っぽいアプローチと言えば簡単ですが、実際に日本であのような大怪獣と向き合うとしたら、作中のような震災と同様に災害対策のプロセスを踏んだと思われますし、あの辺のロジ回りの描写を、緊張感を保ちながらもコミカルさを入れつつ、非常にテンポ良く描いていたのは流石だと思いました。

また、1954年のゴジラが水爆実験から生まれたように、2016年のシン・ゴジラも核廃棄物から生まれたことを明確に伝えられ、ゴジラと向き合う日本人もまた核という究極の手段を迫られることになるという構図が作られており、双方の作品に共通する点だと思います。さらに、本作の後半で描かれた、放射線の線量や除染に対する認識というのは、日本が震災とともに経験した原発事故の存在を強く意識させられたと思います。

子どもの頃は全然考えなかったことですが、1954年の『ゴジラ』は怪獣という形を通じて核の恐ろしさを伝えている部分が肝である思っただけに、本作もこれを強く意識して取り入れていくと同時に、現代の要素を加味して描いていった点は非常良かったと思います。だからこそ、アレだけ笑わなかった、市川実和子さんが演じる尾頭さんの笑顔の意味も一段と重みを感じました。

丁度、昨年12月に『スターウォーズ フォースの覚醒』と『クリード チャンプを継ぐ男』を続けて鑑賞した時に「名作」の「新作」を作るうえで大切なことは、【継承】と【革新】の2つだと思いました。ファンとともに作品が紡いできた歴史をいかに引継ぎ、今という時代の中で新しいモノを作っていくのか。本作を鑑賞するにあたって、その点を強く意識しておりました。上記に書いたように、監督の趣味的な部分も含めて継承の部分はしっかりと描いておりましたし、現代的な側面を加味した新しい要素も引き出せたのではないかと思いますので良かったと思います。

また、エンディングロールの日本の総力戦といった陣容を見ると、本作を完成させるに当たってゴジラ級の莫大なエネルギーの動きがあったことを感じただけに、素直にスタッフ、キャストの方々に労いの言葉をかけたいですね。

庵野カントク、素晴らしい映画をありがとう。お疲れ様でした(意訳:ヱヴァもしっかり頑張れ)。