蛸

シン・ゴジラの蛸のレビュー・感想・評価

シン・ゴジラ(2016年製作の映画)
4.4
これは「現実の日本にゴジラが現れたらどうなるのか」というシミュレーションの映画化であって、ある種究極の「ごっこ遊び」だと思った。(その点では押井守の『機動警察パトレイバー2 the Movie』に近い。)この映画が始まった時点で、オリジナルゴジラにおける芹沢博士に対応するある人物はもういない。残された人物がどのようにゴジラと対峙していくかというストーリー展開はそのまま庵野秀明を始めとする制作陣の苦闘と重なるかのようだ。
冒頭から半端じゃない情報量がスピーディな編集で観客にぶつけられる。ドキュメンタリータッチの映像や、専門用語満載の台詞や最早読ませる気すら感じられない文字情報のつるべ打ちに巻き込まれて、観客はゴジラが現れた混乱を疑似体験する。未曾有の混乱に対して後手後手に回らざるをえないシステムの喜劇的な一面(まさしく会議は踊る的な)も映画が進むにつれて笑うことができなくなってくる。ゴジラという災害に対応する日本を描くことで、この国の特性が炙り出されていくかのような展開も面白い。
この映画のゴジラは今までのシリーズを通して最も禍々しく、凶悪なゴジラだ(大怪獣総攻撃の白目ゴジラよりも遥かに怖い)被害者視点の描写も丁寧でリアルに世界が終わる感覚を味わえる。とにかく絶望感が半端じゃない。地球上で最も進化した生物、というコンセプトからして素晴らしすぎる。そんな生物を人間が倒せるわけがない、と思わせるだけの説得力のある描写が積み重ねられている。
登場人物のキャラクターは漫画的で説明台詞気味なところもあるにはある。しかしそれも含めて「特撮らしい」と思えたのは、オープニングでわざわざ昔の東宝のタイトルロゴを映し出したり要所要所で伊福部昭の音楽を使用するなど、往年の特撮へのオマージュが大量に盛り込まれているからだ。個人的に特撮はアニメと実写の中間にあるジャンルだと思う。
ラストシーン。オリジナルの『ゴジラ』では「まだなにも終わっていない」ということが台詞で説明される。(志村喬の「あのゴジラが最後の一匹とは思えない。人類が今後も核実験を続ける限り、第二、第三のゴジラが現れるかもしれない」という台詞。)『シンゴジラ』のラストでは映像が同じ役を担っていた。とても映画的な終わり方だ。(その前に説明的な台詞があるにせよ)
これ以上の正解はないんじゃないかというほどに真っ当なアプローチで作られた正真正銘の「ゴジラ映画」。テーマに関してはもちろんのこと、映画のすべてからオリジナルの『ゴジラ』に対する畏敬の念が伝わってくる。まさしく『ゴジラ』の魂を継承し、先に進ませた恐るべき映画だ。見るべし。
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