デニロ

母と暮せばのデニロのネタバレレビュー・内容・結末

母と暮せば(2015年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

山田洋次監督作品なので観に出かける。ほとんど義務です。中身は戦時中の市井の人々の生き方。ここのところこの時代の風俗を描きたいようだ、山田監督は。

原作の舞台である広島を長崎に変えて、原爆で死んでしまった息子二宮和也を思って生きている母親吉永小百合。そこに二宮の婚約者である黒木華が絡み、死んでしまった二宮に尚も思いを馳せているのか、それともそれが時代でありそうしなければ許されなかったのか、というギリギリの女性の立場を描いている。二宮が無くなって3年、いまだに吉永の下に用事を思いついては訪ねている黒木華の姿は哀しい。

二宮と一悶着起こしたが吉永は黒木華に言う。若いんだから善い人がいたら、その人と結婚して幸せになって、そうしてくれたらうれしい、というようなことを。で、暫らくすると黒木はふいにそんな人を連れてくる。勤務先の小学校の同僚である教員浅野忠信。映画版『父と暮らせば』でも同じような役回りを演じていたけど、意図的なのかな。戦場で片足を失くし黒木華に支えられて歩んでいる。

虚を突かれた吉永小百合はそんなふたりを見て嫉妬する。息子は死んでしまってもうこの世にはいないのに、あの娘は幸せになっていく。そんな・・・、息子とあの娘が逆だったらいいのに。思わぬ言葉が飛び出したと感じた。でもやはりそうした心情になるものだろう。戦争の犠牲として何の落ち度もない青春真っ盛りの息子が殺されてしまったのだから。

原爆投下の条件を爆撃機内の映像を見せながら解説したり、一瞬のうちに熱線でこの世から消えてしまう人々を描きながら、息子を幽霊として登場させるファンタジーにしてしまう、ということで何なんだろうと思う。ここで一歩踏み出して責任の所在、戦争の惨さを声高に叫ばないところはニヒリスト山田洋次の面目躍如足るところなのかもしれない。でも、最後に母子が支え合っていくだけじゃ、伝わらないこともあると思う。

陰気な設定にアクセントを付けているのは加藤健一が演じた吉永小百合に思いを寄せる闇屋のおじさん。どこかで見たことのある雰囲気、ですよね。
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