鹿江光

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲の鹿江光のレビュー・感想・評価

3.3
≪68点≫:尊厳と反乱の物語。
ワンちゃんの世界にアカデミー賞が存在するならば、本作の主役を演じたワンちゃんは、大本命ストライクで受賞していただろう。「中に人でも入っているのか」と思うほどに感情が豊かで、喜怒哀楽の機微が絶妙に表現されている。むしろそこら辺の人間よりも演技が巧い。事実、『パルムドック賞』なるものを受賞したとか。
日本人とってはどこまでもファンタジーな内容だが、ハンガリーのペット事情に即すると、どうやら人間にとって他人事ではないらしい。
人様の都合で飼われたり、時には捨てられたり……「それがペットというものだ」と言われればそれまでだが、やはりどこか身勝手さが残るのが、今のご時世ではないだろうか。
愛する友人から離れてしまった犬は、生き抜く中で次第に野性を取り戻し、やがては虐げられてきた仲間たちと共に、尊厳と復讐の旗を掲げる。統率された犬の軍団が街中を疾走するシーンは、まさに圧巻であり、恐怖である。彼らの反乱と革命は決して理不尽なものではない。それもこれも、すべては人類がしてきた行為への反駁である。
ラストは非常におとぎ話のような展開だが、だからといって「ワンちゃんやペットを大切にしようね」という児童書のような結末でもない。ある人物が「時間を与えよう」と言っていたように、この物語は「人類と自然との境界線を改めて考える」ための作品のように思える。時間はかかるかもしれないが、考える意味はある。互いにとって均衡を保てるラインがきっとあるはずだ。服従ではなく、共存というラインが。
それにしてもワンちゃんがいっぱい。一緒に広大な野原を駆け巡りたい。
鹿江光

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