Akiyoshi

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲のAkiyoshiのレビュー・感想・評価

4.3
実写版「ペット」とも言えない
犬たちと人間の戦争。

生半可な気持ちで本作に手を出してはいけない。
そんなことをしたら私のように噛みつかれてしまう……。

~あらすじ~
とある町で雑種犬に対して重税をかける法律が制定される。ハーゲンという犬をかわいがっていた13歳の少女リリだが、父親にハーゲンを捨てられてしまう。突如として飼い主と引き離された悲しみを抱えたまま町をさまようハーゲンと、その行方を必死になって追い掛けるリリだったが……。

私ただの犬好き。
犬がたくさん出演するからと本作品を鑑賞。
見事に打ちのめされました。
心がしんどい(~_~;)
それほどまでに第67回カンヌ国際映画祭・ある視点部門賞を受賞した異色ドラマのインパクトは強い。
人間の傲慢さ、目をそらしていた社会の闇。犬だけでなく、動物が好きな私としては心が痛む。それだけでなく動物への愛情を再確認することにもなった。

「早く終わって欲しい」

観ている最中で私はずっとそう考えていた。軽い気持ちでの鑑賞を悔やみ、いっそのことと停止ボタンに何度も手を伸ばした。しかし、目を背けてはいけない「モノ」があるという使命感にかられた。
人間のエゴ。序盤で牛肉を加工するシーンがある。血が流れる解体シーンは、目を覆いたくなる。だがしかし、私たちはパック詰めにされた牛肉をスーパーなどで目にして、当たり前のように調理をして口に運ぶ。そのときに沸き上がるのは罪悪感ではなく、食欲という欲求である。だから序盤の加工シーンから「現実を見ろ」と訴えかけてくるように感じた。

そんな始まりがあり、主人公リリの犬であるハーゲンの愛らしさや雑種が迫害される描写が続くストーリーが新たに始まる。「現実を見ろ」とされただけに犬が映る度に胸がいっぱいになる。しょっぱなから重さを感じて、本編の雲行きと同様に私の心も雲っていった。
そして愛らしい飼い犬との悲しい別れがやって来た。車を追いかけて走ってくるシーンには目頭が熱くなり、同時に道中に犬を放り出すリリの父への怒りを感じた。泣きながら怒る子どものような感情である。私も犬のことで家族と衝突した経験があるだけに余計に心に来るモノがあった。

その後の物語は……語りたくもない。

「猿の惑星」ならぬ「犬の惑星」とも言えなくもないが、猿よりも身近な存在である犬に対する人のエゴをオブラートに包まず、「ほら観てみろよ!」とさらけ出される。
犬の視点があり、しかも表情も感じ取れる演技派の犬たちが多いため犬に感情移入をさせようとする試みも見えた。犬を通して爽快感を見せようとするラストのアレは正直いかがなもんかな、と思う。(色んな意味で)ちょっとやりすぎている。レクイエムと共にラストを迎えた瞬間に感動と似たような後味の悪さを感じた。

先月、「ジャングルブック」や「ペット」などの動物のかわいさや動物を比較的メインな登場人物にする無難なファミリー映画を鑑賞したばかり。
それだけに、ここまで迫害描写が突出している映画を観た衝撃は大きい。
考えさせられる映画というものは多く観てきたが、実際に明日からの生活そのものに影響を与え、生活を変えようと思うに至った映画は他にはない。

映画に出演した250匹の「実際に施設にいた犬達」は、全員飼い主にもらわれていったらしい。本作品は、それだけの社会的価値のある映画だろう。

キャストには犬の名前を書くべきである。

最後にもう一度、
本作品は生半可な気持ちで鑑賞する映画ではないと注意したい。
Akiyoshi

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