MasaichiYaguchi

恋人たちのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
4.0
「ぐるりのこと。」から7年振りの橋口亮輔監督の最新作は、理想と現実の乖離の中で打ちのめされながら、希望という出口を求めてもがいて生きる3人の物語。
主人公の篠塚アツシは、ある事件で最愛の人を失い、自暴自棄になりそうなのを抑えて日々橋梁点検の仕事をしている。
その仕事振りは「石橋を叩いて渡る」ではないが、日常に潜んでいる危険を察知しようとしているように見える。
ロイヤルウェディングした雅子妃に憧れる主婦・高橋瞳子は、味気ない平凡さに埋没していく日々に抗うように妄想に近い現実逃避に耽ったりしているが、ある男との出会いがそれに拍車を掛けていく。
そしてエリート弁護士の四ノ宮は、学生時代からの叶わぬ思いの相手との関係に焦燥感と諦念との板挟みにいる。
映画を観ていると、3人は特異な人物のようでいて、意外と回りにいそうな気がする。
そのような感じがするのは、本作のキャスティングにおいて光石研さん、安藤玉恵さん、木野花さん、リリー・フランキーさんを除き、主要人物をはじめ殆どのキャストが無名の俳優たちばかりで、彼らが醸し出すリアルさから我々観客と“地続き”のような感じがするからだと思う。
上映後にあった橋口監督と篠原篤さんの映画賞受賞のスピーチで、実際に監督も篠原さんもこの作品の主人公同様に、少し前までどん底のような生活で、明日への希望が持てなかったと話されていた。
そしてこの映画に取り組んでいく中で多くの人々に助けられて完成し、遂には映画賞受賞にまで至ったと感慨深くスピーチされていたのが印象的だった。
監督と主演男優のそのような人生の状況が正に映画に反映されたかのように3人は人とのつながりの中で何かを見出していく。
初め本作のタイトルから甘い恋愛映画のような印象を受けたが、鑑賞後、私は”恋する人”を描いた作品だと感じた。
“恋する”対象は3人夫々ではあるが、”恋する”ことの葛藤や挫折を経て何かを掴み取ろうとする彼らの姿に希望を感じる。