くりふ

アメリカン・ドクターXのくりふのレビュー・感想・評価

アメリカン・ドクターX(2012年製作の映画)
3.5
【血まみれメアリーのお仕置き執刀】

店頭でみつけた未公開作、借りてみたらばナカナカの掘り出し物。

カナダ産、双子ゴス姉妹監督による陽性猟奇ホラーで、どこか笑えるノワール。誰にも似ていないような感覚に惹きつけられた。もう少し練ったら傑作になったと思う。

外科医の卵メアリーが、お金に困ってナイスバ生かし、ストリップバーの面接に。が、何故かその場で、黒下着のまま闇医者デビュー(笑)。やっとられんと逃げるものの…アレやコレやで後ろ向きに開眼、心を忘れた身体改造屋として闇社会で成り上がる…というお話し。

そっち系マニアには、Twisted Twinsと名乗るジェンとシルヴィア・ソスカの姉妹監督は知られているようですね。確かにオモロイ。ネタは強烈でも、映像濃度があっさりなのが特異で、女性らしいとも思う。スラッシャー・ホラーになりそでならぬ、さじ加減がオイシイです。

ファンタ系映画祭で主演女優賞を幾つも獲っていますが、確かにメアリー役キャサリン・イザベル、猟奇な役を堂々快演しています。特に、開き直ってミストレスに変貌する様が美しい。残虐行為をしれっとこなしても、顔タヌキ系だし共感しやすい。

好みだともうちとクールビューティな方が、あああ執刀してください、という気になりますが。お肌も露出度高いですが、下品にならないのは女性監督の矜持でしょう。

治療のための外科医療現場と、自己表現としての身体改造の世界を結びつけたところが面白さの肝。前者から後者へと、メアリーが一気に堕ちゆくドラマとして、それなりに説得力を含み滑らかに描いています。

残念なのは骨太い物語としては紡げなかったこと。オチが唐突過ぎ。

最後の惨劇は、確かにわかる。身体改造者は自己愛から改造するのでしょうが、自分の身体は自分だけのものではない、というテーマを含んだ悲劇で、膨らませれば物語としてより豊かになったはず。

例えば、自己愛からペニスを切除した男に妻がいたら、女の自分を否定された気持にならないか?…みたいな切実感ですね。

メアリーとしては都合二度、男に女を踏みにじられることになりますが、自業自得ではありました。明示できませんが、画的には美しいラストで、メアリーもより美しく変貌します。そして、真っ赤に裂けたヴァギナを閉じる、という意図らしき示唆的な閉幕…。

元々は普通の女子大生だったメアリーの視点から始まるので、身体改造者がある程度、魑魅魍魎っぽく描かれるのは仕方ないけれど、当事者はこれ見てどう感じるのかなあ?

メアリーは最後まで、彼らと親しみつつも、ビジネス対象でもある他者として通していますね。

一方、双子姉妹監督自身は、メアリーにある「取り換える」という超絶手術を依頼するマニアを自演しています。この辺りのバランス感覚はとても面白かった。猟奇を描いても、内から起こる猟奇趣味ではなく、作者なりに他者を観察した結果から描いている気がします。

医は仁術、を忘れた外科医はスラッシャーに堕ちる、ということは嫌ですが、少なからずありそう。

人形のようになりたい、と乳首切除と陰裂縫合を依頼する女が登場しますが、リアルバービーと呼ばれる女性は実際にいるし、こうした改造も行われているのでしょうね。

カナダの映画界って、地道に変態を育んでいるのだなあ、と感心しました。大御所クローネンバーグはもう、変態を引退しちゃっているし、今後、この姉妹監督は地道に追ってみたいな、と思いました。

<2014.12.24記>
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