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ビューティー・インサイドのKAJI7のレビュー・感想・評価

ビューティー・インサイド(2015年製作の映画)
3.8
ヒトが恋をするカラクリは、脳を構成する重要な神経繊維である「A-10神経」という神経が反応することに基づいているという。アドレナリン、ノルアドレナリンを放出する、ドーパミンの通り道だ。
この神経が反応を示した時、ヒトは反射的に恋に落ち、無鉄砲にも愛に身投げしてしまう。

他者の心というのは、いつだって目には見えない。
他者の姿さえ、時には朧気に霞むというのだから、内面世界というのには最早絶対的に触れられない。相手のことを知ろうと思えば思うほど、ついには自分の心まで分からなくなってしまって、抱いた感情や微睡みに見た夢夢は、遠い彼方へと流れ去る。

そうやって過ぎいった現実は機械的に大脳にある側頭葉の記憶システムに刻まれる。
悲しいことに、とっても断片的に。
顔。髪。声。似合っていた赤色のリップ。誕生日にあげた小さなピアス。真っ白な足に添えられた、真っ白なスニーカー。
そんな外見のことばかり鮮烈に残っては、あんなに必死に考えていたあの子の想いや感情の起伏は、すっかり忘れてしまって、とうとう二度と思い出せなくなってしまう。
そういう写真や言葉では決して残せはしないものこそが、僕らのA-10神経を刺激するのだと心理学の講義で教えて貰った。

恋が冷め、メロウで致命的な夢が終わりを告げた時、愛した人への情というのは、まるで初めから無かったものの如く無機質に感じてしまうのも、もしかしたらそのせいなのかもしれない。

でも、恋とか愛とかって、そんなにメカニカルに割り切って良いものでは無いと思う。

いや、これは非科学的なわがままなのだろう。
でも、それでも無いと信じていたい。

これまで抱いてきた愛情、受けてきた愛情が、代謝の一環なんかじゃなくて、もっともっと神秘的で、優しいものであるはずだと、そう思える人間でありたいと願っている。

『ビューティー・インサイド』の主人公は、寝て起きる度に外見が変わってしまう。
昨日は男の子、今日はお婆さん、明日は小学生。
ある日、そんな彼はある女の子に一目惚れしまう。
初めは容姿やしぐさに惹かれていった2人だったが、一緒に時を過ごしていく内に彼女は本当に素敵なのは彼の内面なのだと気が付き、自分の内面についても顧み始める--

木製の温もりを感じる雰囲気がとても素敵な作品だった。こういうシックな暖かみを、本当はいつだって、誰だって求めているのではなかろうか。

運命なんかじゃなくても、脳科学的な作用なんかじゃなくても、人は愛し合えるはずだ。
なんだか、それを教えてくれるような映画だった。
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