鹿江光

ビューティー・インサイドの鹿江光のレビュー・感想・評価

ビューティー・インサイド(2015年製作の映画)
3.7
≪78点≫:内側の自分と外側のあなた。
まず発想からして素晴らしい。目覚める度に顔が変わる主人公。しかも性別・年齢・国籍・体格までもがランダムで変わり、毎朝「初めまして」の自分に出会う。つまり、個人を決定付ける上で一番重要な「顔の現象」が作用しないのである。そんな特殊な人間がひとりの女性に恋をした。
この物語のテーマはものすごく直球的で、「人は外見か、それとも内面か」である。中には綺麗事を並べる人もいるが、やはり人の印象というものは顔で決まると思う。そしてその人の内面性もやはり顔に出やすい。不機嫌の時は口角が下がり、嬉しいときは笑顔が広がるように、表情によって相手の気持ちを読み取ろうとする。顔あっての内面なのか、内面あっての顔なのか。両者は密接に関係しつつも、果たしてどちらが決め手となるのか、ということを判断するのはすごく難しい。
この作品の良かったところは、恋を抱かれた女性側の視点もしっかりと描かれていたことだ。むしろこの視点こそが、本作の主軸になる。愛する人が目の前にいるのに、その人の顔はいつも違う。その状況がどれだけの苦しみを生むのか…。確かに、我々は誰かとの想い出やその人のことを想うとき、まず最初に「顔」を思い浮かべる。そこに声や匂いや温度が伴ってきて、ひとつの時間が形成されていく。このことは言い換えれば、「顔を外しては、その人について想いを巡らすことができない」ということだ。顔と時間が結びつかないことで、確かにあったはずの想い出が消えていく。その辛さが犇々と伝わってくる。
相変わらず韓国映画は、こういう恋愛の機微を描かせたらダントツの面白さである。ファンタジーを土台にしながら等身大の想いを描く。現実と重なる想いがあるからこそ、例えそれがファンタジーだとしても抵抗なく世界に入っていける。
人間は内面で決まるのか。いいや、人間は内面から始まる。
鹿江光

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