みかんぼうや

はじまりへの旅のみかんぼうやのネタバレレビュー・内容・結末

はじまりへの旅(2016年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

【父親のこの変わりよう!ユニークな設定に考えさせられるも、後半で一気によくあるハートフルな家族物へと急失速】

ワ~オ!残り30分で一気に物足りない爽やか家族物に・・・途中までは色々と思うところあり面白かったが、後半で一気に失速したな~。

以前から気になっていた作品で、レビュアーさんの評価の割れ方を見て気になり視聴。なるほど、たしかにこの話には共感できません。ただ、この点数は共感できないからではなく、映画としての展開が残念だったから。

実は、そのユニークな設定もあり、前半は結構興味深く見ていました。狂信的なまでの自身の思想を子供たちに教育として押し付ける父。その父の教えを信じ社会性を失っていく子供たち。この子供たちの社会性と思考の柔軟性の欠如に繋がる洗脳染みた押し付け教育に胸糞の悪さを感じつつも、まがりなりにも教育事業に携わってきた自分にとって、子どもの成長に与える親や教育環境の影響という個人的に好きなテーマにかすっている内容ではありました。子どもたちの考え方の固まり具合に危なっかしさを感じつつ、“子は親や環境を選べず、子供が悪いわけではない”や“いかに偏った教育でもそこにいる家族の絆は深く幸せである”というテーマは、「フロリダ・プロジェクト」と同種のものを感じ(話や舞台は全く別物ですが)、父親への共感は全くできないものの、その後の展開に期待を持っていました。そもそも私が考える一般常識や社会性という物差しでこの家族を評価すること自体、私の思想の押し付けになってしまうのではないか?と自問自答してみたり・・・

が、後半30分で一気に大失速、★-0.5くらいでしょうか・・・その決定打が、娘が屋根から落ちるアクシデント発生後の父親の豹変ぶり。私の非常にひねくれたうがった見方が存分に思いっきり出てしまいますが、あれだけ強固な思想を持って、子供たちを生死に関わるレベルのロッククライミングでトレーニングし続けた父親が、しかも思考が凝り固まっているであろうこの年齢で、これだけ急に過ちを認め思想転換することはないだろう、と。いくら娘の事故がきっかけとはいえ、これまでの長い日々の生活で培われた、親戚家族とのディナーでも垣間見ることができるような狂信的で非社会的な姿勢は、そんな簡単には直らないでしょう。しかも、本作を見る限り、それまでの生き方を全否定するかのように急に爽やかな親父になってしまう・・・いや、実はその思想の変化の過程はこの作品に描かれていない裏で色々あったのかもしれない。ですが、「はじまりへの旅」というこの作品のタイトルが、新しい生き方や考え方、生活の始まりを指しているのであれば、この思想の変化の過程やそこにいきつくまでの葛藤こそが重要だと思うのですが、映画上では、娘の事故後、ビックリするほどあっさりとその思想が変化していて、正直この描き方は荒すぎでは、と。

狂信的な思想を持った人間が、その自らの思想の変化とともに社会に適応していく変化を描くという映画では、大好きな「アメリカン・ヒストリーX」(こちらもテーマは全然違いますが)を真っ先に思い浮かべるのですが、こちらではその変化の過程が丁寧に描かれていて、全く不自然な感じがなく、その変化を受け入れられたのです。しかし、本作は唐突に人格が変わったようで、しかもそれが真逆なくらい爽やかになってしまったので、急に作品から突き飛ばされたような感覚になってしまいました。そこからは、それまでの社会不適合のギャップという面白さから一転、どこにでもある温かい家族のようになってしまい、一気に作られた感動物特有のチープ感が増してしまい残念でした。

「人は変われる!」というポジティブでハートフルなヒューマンドラマが終着点だったのだろうと思います。が、個人的には悲観的な思考ですが、「フロリダ・プロジェクト」のように最後まで教育環境や育児放棄的な重い雰囲気の中、バッドエンドでもいいので描き続けて欲しかったです。

最後に余談ですが、作品自体のテンポは良くて映画としては見やすかったです。自然の描写も美しくて個人的にとても好きでした。あと、レビュアーさんも書いていましたが、髭を剃ったヴィゴ・モーテンセンを久々に見て、ハッとさせられました。やっぱりカッコいい!(最近の彼の印象は「グリーンブック」のイメージが強かったので)
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