黒田隆憲

はじまりへの旅の黒田隆憲のネタバレレビュー・内容・結末

はじまりへの旅(2016年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

これ、気になってたけど観てなかったな〜と思ったらメチャクチャ観たことがあった。しかもクライマックス辺りまで全く気付かなかった……いつ、どのタイミングで観たのかすら思い出せない。劇場で居眠りしてたのかな。

昔、恋人に「サバイバルナイフ1本で生きていける男が理想」と言われたことがあって、30年くらい経った今もずっと忘れられない。ここに出てくるファミリーはまさにそう。学校へは行かず世間とコミュニケーションを絶ち、自分たちで獲物を仕留め自給自足の生活を行ない、そればかりか夜は哲学書や学術書を読み耽り、気が向くと楽器を持ってセッションを始めちゃう。前半はそんな、いわゆるヒッピーの理想の姿が延々と描写され、彼らがバスに乗って都会へと「下りて」いくシーンでは、我々が「普通」と思っている生活の方こそ「異常」だと感じてしまう。が、彼らは自然界ではサバイブ出来るかも知れないが、現代社会で生き残っていくことは不可能だ。「子供の選択肢を広げてあげること」が正しい教育だとしたら、やはりこの家族の教育方針は間違っていると言わざるを得ない。実際、主人公は義父から「お前のやっていることは児童虐待だ」と咎められるが、「そうじゃない」と反論することはこの「一般社会」では極めて難しい。

エンディングでは、ちゃんと学校にも通いながら自給自足を目指す家族の姿が描かれる。外の世界とちゃんと繋がりながら、経済的、精神的にも自立した生活を送ることがやはり理想なのかも知れない、と当たり前のことに気づかされました。

それと、家族を離れて旅に出るラストシーンで長男に父親が言ったセリフ、「女性とセックスするときは優しく、気持ちを聞け。愛してなくても大切に。常に正直に、常に高潔に。日々、人生最後の日と思え。呼吸しろ。大胆に挑戦して楽しめ。すべて一瞬だ。死ぬな」は激しく同意です。

アレックス・ソマーズの音楽も、子供たちがアコースティック・カヴァーするガンズの「Sweet Child Of Mine」も最高でした。
黒田隆憲

黒田隆憲