Tラモーン

ボーダーラインのTラモーンのレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
4.0
メキシコ麻薬カルテル映画にハズレなし!


FBI誘拐即応班のケイト(エミリー・ブラント)は誘拐事件の容疑者宅の奇襲捜査で、家屋の壁から無数の誘拐被害者の死体を発見する。その捜査中に物置に仕掛けられた爆弾が爆発し、警官2人が犠牲となってしまう。
ケイトは上司の推薦により国防総省のマット(ジョシュ・ブローリン)に引き抜かれ、今回の誘拐事件の首謀者でメキシコ麻薬カルテル、通称"ソノラカルテル"の首領マニュエル・ディアスの捜査へ志願することとなる。
エルパソへ移動したケイトは所属不明のコロンビア人アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)と対面。そしてメキシコ・フアレスからディアスの兄を護送する作戦への参加を命じられる。


正義感溢れるFBI捜査官が善と悪の境界線(ボーダーライン)で苦悩する姿と、メキシコ麻薬カルテルのリアルに迫ったサスペンスアクション。

主人公はエミリー・ブラント演じるケイトなんだけど、彼女はあくまでも「法の秩序」に基づく正義感を持っていて、作戦の全体像すら把握することのできない彼女は観客の視点としての役割が大きい。
肉体的、精神的に優秀な捜査官でありながら、あまりの異常な状況に事態が飲み込めず常にイライラと困惑した表情が印象的。 

"今日の事件の首謀者を逮捕できる?"

彼女の善悪観を超えたところで揺るがない存在感を放つベニチオ・デル・トロの演じたアレハンドロの演技は凄まじい。
目的達成のためなら手段も選ばない冷徹さと何を考えているかわからない表情、後半まで語られないバックボーンが不気味さを際立たせる。

全体像が見えず、しかしながら不穏な空気に満ちた展開はまさにメキシコ麻薬カルテルの恐ろしさと、彼らとアメリカ政府の麻薬戦争の複雑さを表現したものなのかなと思う。
わけもわからないまま国境を越え、武装したメキシコ警察の護送車両とフアレスをひた走り、市内には見せしめのために吊るされた惨殺死体。物々しい恐ろしさと、何が起こっているのかわからない空恐ろしさ。
そして帰りの国境での銃撃戦など緊迫感がまったく休まらない。

黒幕逮捕のために悪人を泳がせる政府。メキシコ麻薬カルテルに買収された米国警官。そして自分が利用された理由。
何を信じたらいいのか疑心暗鬼となっていく恐怖感。

そして毒を持って毒を制すとばかりに突き付けられる衝撃的な事実。

法秩序に縛られることなく、敵をも利用し、無情になれるものしか麻薬カルテルとの戦いには勝てないのだろうか。冒頭で「逮捕」という言葉を口にするケイトとは対極のアレハンドロの言葉が印象に残る。

"お前は狼になれない"

あの食卓のシーンは忘れられないな。同情できる気もするし、よくぞそこまで…という気持ちにもなる。

メキシコで暮らす警察官シルヴィオと息子の日常が合間合間に挿入されていただけにラストシーンは複雑。麻薬カルテルに支配された街では銃声は日常なのか。
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