MasaichiYaguchi

ボーダーラインのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
3.9
原題“SICARIO”はスペイン語で「殺し屋」を意味する。
アメリカとメキシコの国境地帯で繰り広げられる麻薬戦争を描く本作において「殺し屋」とは何を意味し、誰を指すのか。
それは本作のテーマと共に怒涛の終盤の展開で明らかにされる。
そして本作を上手く表現している邦題の「ボーダーライン」だが、登場人物達が夫々の目的を果たす為、法の網を潜ったり、法を逆手に取ったりして、超法規的措置でそれを踏み越えていく。
この作品は、エミリー・ブラント演じるFBI捜査官ケイトの視点から描かれるのだが、映画の冒頭から彼女の正義の視点が如何に脆弱なのかを我々は薄々察してしまう。
そのことに関しては、彼女が米国防総省の麻薬組織撲滅の特別部隊に加入後、益々その思いは強くなる。
それだけ麻薬カルテルの闇や麻薬戦争の泥沼は深く、法の正義を振りかざしても、それは蟷螂の斧に過ぎないのかもしれない。
本作では、過去を含めた登場人物の細かいプロフィールが描かれないが、かつてはケイト同様に正義の視点で行動していたと思われる人物がいる。
この作品の主人公はケイトであるが、私は“本当の主人公”はこのキーマンなのではないかと思う。
このキーマンの来歴が分かった時、いくら優秀とはいえ、何故畑違いのケイトが特別部隊に呼ばれたのかを含めた“全容”がはっきりと浮かび上がってくる。
主演のエミリー・ブラント、ジョシュ・ブローリン、公開中に「エスコバル 楽園の掟」では実在の麻薬王を演じたベニチオ・デル・トロという主要キャスト達の素晴らしい演技もあり、非情で緊張感のある“無法地帯”の現実がリアルに胸に迫ってくる。