カイ

ボーダーラインのカイのネタバレレビュー・内容・結末

ボーダーライン(2015年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

まず「ボーダーライン」という邦題が素晴らしい。物語の本質を言い当てている。本作はメキシコの麻薬戦争の実情を緻密に描いた映画であるが、本質は別にある。それは様々な「正義」の在り方であり、そしてその衝突である。主人公は三人おり、それぞれケイトは「法」、グレイヴァーは「国家」、アレハンドロは「個」の正義のメタファーである。ケイトは麻薬戦争の内情を知っていきながらも、どこまでも「法」による裁きに固執する。一方のアレハンドロは妻子を殺された恨みからカルテルに復讐を誓う「個」としての正義に衝き動かされている。そしてグレイヴァーはケイトもアレハンドロをも利用し、米国にとって都合の良い麻薬流通状況を作り出そうとする「国家」としての正義に重きを置いている。彼が常に「混乱」を起こし、「秩序」を生み出すと語っているのはこの為だ。この様相は正に神話的であり、哲学的でもある。三者の言い分は衝突しながら、遂には「法」は「個」に敗北するのだが、あのラストシーンは不思議な程に淡々としている。そして最後のサッカーシーン。混乱を経て、今日も麻薬戦争は続いている。
「善」と「悪」の境目は明白であるはずだが、それは自身が準拠している共同体という「フレーム」の内側で機能しているに過ぎない。ではもしその「フレーム」の無い世界があるとしたら?「正義」はどう定義されるのだろうか?
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