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ネオン・デーモンのumisodachiのネタバレレビュー・内容・結末

ネオン・デーモン(2016年製作の映画)
2.7

このレビューはネタバレを含みます

独特の色彩感覚と、散りばめられたメタファー。現実とも妄想ともつかない悪夢のような世界がスクリーンいっぱいに広がり、観る者の右脳を強烈に刺激してくる。ニコラス・ウィンディング・レフンの本領発揮といえる快作……いや、怪作だった。

『ネオン・デーモン』には、ありとあらゆるメタファーが散りばめられている。しつこいほどに繰り返し出てくるアイテム、抽象的なクライマックス、唐突に想えるエピソード……おそらく、それらすべては監督の緻密な計算によるもので、はっきりとした意味が込められているはずだ。

例えば、鏡。

主人公であるジェシーは、冒頭のシーンの直後で鏡に写る自分をじっと見つめる。その後も、何度も何度も繰り返し”鏡”というアイテムが登場する。ジェシーが鏡に写る自分を見つめるシーン、他のキャラクターが鏡ごしにジェシーを見つめるシーン、鏡を割るシーンと、不自然なほどに”鏡”ばかりが登場する。

“鏡”とは、ナルシシズムの象徴だ。ナルシシズムの語源となったギリシャ神話に登場する美少年ナルキッソスは、ニンフたちの求愛を悉く冷淡にはねつけたことで恨みを買い、復讐の女神ネメシスによって”決して叶わぬ恋に苦しむ”ようにされてしまう。結果、水面にうつる自分の姿に恋をし、狂乱状態となって哀しみのうちに死ぬ。

そう。ジェシーはナルキッソスそのものなのだ。純粋な田舎娘といった雰囲気で登場するが、彼女は最初から傲慢だった。

冒頭近くのトイレでの会話シーン。整形だらけの先輩モデルたちから天然の美を妬まれた後、ひとりトイレに残った彼女は、鏡に向かってほんの少しだけ微笑する。

また、モーテルの管理人ハンクが隣の部屋の少女を襲ったとき、ジェシーは怯えながらも一切少女を助けようとはしない。ジェシーは一貫して、本質的に傲慢で利己的なキャラクターとして描かれている。

モデルとしてナチュラルな美しさを評価されればされるほど、最初から持っていた傲慢さの芽は大きく成長し、彼女を自己陶酔で包んでいった。そして、ジェシーは自分に想いを寄せる人間の性的接触を悉く拒否。この点も、自分以外誰のことも愛せなかったナルキッソスとピッタリと重なる。

このように、『ネオン・デーモン』に登場するあらゆる要素には様々な意味が込められている。記号の洪水に疲れるくらいだ。

『ネオン・デーモン』は決してわかりやすい映画ではない。しかも、ちょっとグロい。ストーリー展開のわりに尺が長すぎる気もするし、「やりすぎかな?」と思う部分もないではない。それでもやはり、極めて魅力的な映画だと言わざるを得ない。

唯一無二の色彩感覚と、病みつきになる世界観。これでもかと詰め込まれた監督のメッセージと女優たちの振り切れた演技(キアヌ・リーブスもいい感じでクズ)。ラメやネオンでギラギラと照らし出された、この自己陶酔の悪夢は、体験する価値はある。

ただ、私の感覚では【悪趣味】としか思えない要素も多かった。好きな人にはたまらない作品だと思うが、紙一重。
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