蜘蛛マン

トゥルー・ストーリーの蜘蛛マンのレビュー・感想・評価

トゥルー・ストーリー(2015年製作の映画)
3.4
カポーティの「冷血」を思い起こさせるような筋立てで、けっこう興味深く観れた。
捏造記事でニューヨークタイムズを追放されてしまい自分を見失った記者が、家族殺しの容疑者にある種の共感と自己投影を行なって混乱していく。

確かに人間は、ふとしたきっかけで他者を自分に重ねがちである。特にメンタルが不安定なときは。たぶん自己の再構築を行ううえで、それが最も思考コストの掛からない方法なんだろう。
そういう意味で、主人公の境遇には殺人犯に自分を重ねるある程度の説得力はあった。

ただ、逆に言えば、自分にはそれ以外に主人公が殺人犯に引き付けられる要素が全く見いだせなかった。
この犯人には、強いカリスマ性があるわけでも、騙す話法が優れているわけでも、主人公と似た人生を歩んできたわけでもない。事実、主人公以外の人たちは誰一人、犯人に欺かれてはいない。
主人公が引き込まれてしまった理由がメンタルの不安定さだけなのであれば、理由としてはあまりに説得力がなく、観ていて釈然としないものが残る。

ジョナ・ヒルとジェームズ・フランコの演技自体は素晴らしく、脚本がもう一歩心理の深いところまで掘り下げられれば、もっと面白くなりそうで惜しい気がした。
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