ゑぎ

夢のゑぎのレビュー・感想・評価

(1943年製作の映画)
4.0
 ポーランド支配下のウクライナが舞台。1933年から1941年までを描く。インタータイトル(挿入字幕)が沢山使われる。冒頭はアンナ-エレーナ・クジミナが、田舎の親元から、都会の兄を訪ねて旅立つ場面。画面左にキリストの磔刑像がある十字架。続いて都会の建物の大俯瞰。3年後。アンナは幸運だったと字幕が出る。レストランというかナイトクラブのような店の受付係の職を得ている。この場面は、警察のお尋ね者が逃げるのをアンナが阻止し逮捕を手伝う場面でもある。

 アンナは帰宅すると下宿屋の使用人だ。下宿屋兼果物屋か。女将の息子ラザールは、設計技師だが、職に就かず設計案を作成している。女将さんは、ガミガミ口うるさい。夜、下宿人たちはビンゴで遊ぶ。彫刻家の老人、御者、結婚相手募集の広告を出そうとしている女性のヴァンダ。ラザールもビンゴに参加したいが、金を持っていないから、信用されない。

 アンナがレストランで給仕をしていると、エラそうな紳士が難癖をつける。コーヒーを運ぶ場面を3回繰り返すが、3回目は紳士にぶっちゃけ、これでクビに。アンナがお兄さんの部屋へ行くと、お尋ね者かと思った男は、お兄さんの仲間だった。名前はトマシュ。トマシュは通りで警官から隠れるために、アンナにキスをする。

 ヴァンダとラザールが外出しようとしていると、レストランにいたエラそうな紳士が訪ねてくる。結婚相手募集の広告を見て来たのだ。ラザールは、ヴァンダが好きだったのか。ヴァンダの方はラザールのことを何とも思っていないみたいで、エラそうな紳士といそいそとデートへ行く。

 全編の中でも中盤の修羅場のたたみかけは圧巻だ。ラザールが自信満々だった設計案を工場で却下されて、帰宅してからの場面。下宿の皆に採用されたと嘘をつき、ヴァンダとダンスホールへ行くために、母親の抽斗から金を盗む。こゝで一部を賃金の前借りをしたいと申し出たアンナに渡す。ヴァンダを連れて行ったダンスホールの美術装置も見事だ。大きな螺旋階段とその奥の2階のテーブル席が見える奥行きのある画面。ラザールとヴァンダとは離れて、エラそうな紳士もいる。ラザールはシャンパンを追加で頼み、金が足りなくなる。ヴァンダと上着と帽子を店にカタとして取られ、辱めを受けるラザール。

 一方、下宿屋では、女将がアンナのレストランでのクビの件や兄の活動を知る。また、抽斗から金がなくなっていることを見つけ、アンナの所為にする(アンナが抽斗の匂いのする金を持っていたからだ)。ラザールは下宿屋に戻り、母に金を無心。怒る女将。ここからが本当の修羅場。アンナは追い出されるが、出て行く際に女将のことを口汚く罵る。さらにエラそうな紳士がヴァンダを連れてやって来て、ラザールも家を飛び出る。

 この後、アンナとラザールが2人助け合い、歩いてロシアへ行こうとする、という展開には唖然としてしまった。ロシアには夢があるというトーンで描かれている。また、2人で同じ部屋に寝るシーンは、ちょっと『帽子箱を持った少女』を思い出した。結局ロシアへはたどり着けず、2人は警察に捕まり、取り調べられる。アンナがトマシュの面通しをする場面では、知らないと云い、殴られる。こゝは怖い場面だが、良い演出だと思う。トマシュもアンナを知らないと云う。こんな美人と散歩してみたい。拷問されたアンナが独房に戻された際に、トマシュが私と散歩したいと云った、と小声で呟き倒れ込むのが上手い。

 そして、エピローグはそれから5年後。ウクライナがようやく国になったと字幕が出るが、ソビエト連邦に入ったということか。下宿屋のその後が描かれて、こゝも唖然とする展開だ。ちょっと取ってつけたようではあるが、驚きのある良いエンディングだと思う。
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