ユウサク

ガールフッドのユウサクのレビュー・感想・評価

ガールフッド(2014年製作の映画)
4.8
前半、兄から殴られたマリエメがベッドから無造作に手を放っていて、カメラが手の先から顔の方へとパンしていく。一呼吸おいて再び手の先の方へパンしていくとすでに同じく妹がベッドから伸ばした手が繋がれている。この一連だけでこの映画を端的に示していて凄まじい。

前半はヤンキー漫画かってくらいはっきりと、そして身も蓋もなく非行へのプロセスが描かれていて、目が合うなりののしり合い、ビーフでもするのかなと思いきや素手で殴り合い、「だれか殺しに行こう」というとんでもないセリフが飛び交い、といったノリなので半ばコミカルにも感じられちょっと笑ってしまった。パークゴルフだかゲートボールだかでずっと言い合いしてるシーンなんかおかしくてしょうがない。Diamonds in the sky~♪のシーンも含めて4人のケミストリーが良過ぎてずっと見てたかった。「自分のためにやったんだろ」からの抱擁や「嫉妬してるんだろ」からの抱擁は本当にアツかった。マリエメ役のカリジャ・トゥーレ含めあの4人組はみんな街でスカウトしてきたらしく、たしかに経験者ではないだろうなと思いながら見てはいたけどそのぎこちなさがかえってリアルに感じられた。

後半、マリエメが「首を絞めて」復讐を果たして以降はゆっくりとマチズモの影が忍び寄ってきてマリエメを呑み込んでいく。友人達との訣別のような一夜を過ごし、売人となったマリエメは過剰にフェミニンな服装で仕事をこなすけど売人仲間のルーズな服を着たら意外とそれがしっくり来たみたいで(という解釈でいいのかな?)これ以降は基本スウェットにチノパンスタイルになる。売人のガールフレンドにも少し惹かれている様子だったりサラシを巻いたりしていて、こういうセクシャリティやジェンダーアイデンティティの揺らぎも自然と盛り込んであるあたりは監督の手腕かな。ただこれがマチズモへ「適応」していくプロセスともリンクしているのが少し痛々しい。
そしてボーイフレンドに結婚が唯一の回答のように示されてもマリエメはそれを受け入れられず「自分の未来ではない」とリスペクトをもって断る。家出した家に帰る勇気も出ず泣き始めてしまうマリエメ、流れ始めるシンセのメインテーマ、マリエメは右へフレームアウトしていく。ボヤけた遠景、このまま暗転するのかなと思いきや右からフレームインするマリエメ、転調するメインテーマ、思い切り左へフレームアウトしていくマリエメ。暗転!
最高!!!!!!!!!!!!ラストカット完璧過ぎて巻き戻して3回見ちゃった。こんなに映像で説明できてるカットはそう見ない。ラスト適当に主人公が走っていい感じになった風に見せる映画の100倍優れたラストカット。こういうのが見たくて映画を見ている。場面転換ごとの暗転が気持ち長過ぎるかなと思ったけど、ここと前述の手を繋ぐカットだけで100点です。

字幕の語尾が徹底して「〜だろ」「〜か?」などになっていて作品に集中できた。字幕翻訳は森彩子さん、字幕監修は井上牧子さんという方みたい。
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