TaiRa

光あれのTaiRaのレビュー・感想・評価

光あれ(1946年製作の映画)
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米国陸軍の要請で作られた記録映画にも関わらず、戦争によって心が壊れてしまった復員兵のありのままの姿が記録されていた為、30年以上封印された作品である。

ポール・トーマス・アンダーソンの『ザ・マスター』における軍人病院の場面は、撮り方から台詞までこの映画を元にしている。ほとんどリメイクと言って良い。精神的な問題を催眠療法で治療して行く過程などは作品全体に影響を与えており、『ザ・マスター』という映画は今作の内容を拡大、応用したものだと分かる。この映画が日の目を浴びたのは制作から35年ほど経った1980年。ちょうど同じ年、米国の精神医学会の診断基準に初めて「PTSD(外傷後ストレス障害)」という言葉が用いられた。映画は冒頭に「演出や脚本は一切ない」と宣言される。重要な診断場面はそうだが合間合間に入る場面なんかは明らかに演出している。患者の復員兵も割とノリノリで演技している。とはいえ精神を病んだ人間の姿がむき出しで映っている面談場面などは生々しさが凄い。ドキュメントな場面でも、ここぞという時はカメラをグイグイ動かす。並んだ面談室を廊下側から横移動で撮っていくショットも流石。ここまでカメラワークが洗練された記録映画もあまり観ない。催眠療法を受ける患者を映すショット構成も巧み。ラストの患者たちが元気に野球をしている場面で、入院初期の悲惨な状態と比較する編集が効果的。精神的な要因で歩けなくなった青年がホームランを打って走る時に足元を映すのも感動させる。元気溌剌で希望的な終わり方をするのが、あくまでこれはプロパガンダ映画だと感じさせる。結局お蔵入りだが。
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