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ヒトラー暗殺、13分の誤算のmochikunのレビュー・感想・評価

ヒトラー暗殺、13分の誤算(2015年製作の映画)
3.6
基本的に実話を元にした、ましてそれがひとつの時代の様相を描いた出来事であれば、映画として正当に評価をするのは率直に言って難しい。なぜなら、ノンフィクションの物語を突き詰めて考えていくと、行き着く先にいるのは自分がいるからである。言うまでもなく、自分を客観視して評価するのはほとんど無意味であり、乖離があり齟齬があり誤認があるからだが、それはこの物語にまったく関係ない。
要は、この映画の主人公であるゲオルグエルザーなる人物、そればかりかナチもユダヤ人やユーゲントや強制連行されていく人たちなどの登場人物は、他でもない私たち自身なのである。即ち、本作は私たちの身に起きた過去の話である。

平和の世界では太陽が眩しいくらい輝き、心地の良い風が頬を撫で、愉しげな音楽が鳴り響き、それに合わせるステップがある。返して平和でない世界では灰色の分厚い雲が空を覆い、修繕を必要とするドアの隙間から冷気が入り込み、一定のリズムの軍靴が表に鳴り響き、それに息を潜めて怯える。
私たちは音楽に合わせて踊り、挨拶の代わりに指導者を礼賛し、いささかの疑いで人々を罰し、特定の人種を迫害し、ガス室に送り込まれ、苦しみのうちに死ぬ。
私たちは指導者の暗殺を思いつき、巧妙で精巧な時限爆弾を設計し、講演会場ステージ付近にそれを仕掛け、不可思議な巡り合わせによって爆発の難を逃れ、8人のうちの犠牲者となる。
私たちは警察に捕まり、事件の首謀者の近親者として連行され、惨たらしい尋問を受けながら犯行のすべてを白状させ、その内容をタイプライターに打ち込み、幾年かの特別収所生活の後に銃殺され、銃殺す。
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