流之助

怪物はささやくの流之助のネタバレレビュー・内容・結末

怪物はささやく(2016年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

コナーは13歳。大人と子供の中間。だからこそ子どもの視点では見えないことが見え、完全に大人のように割り切る器用さを持つことができない。成長期だからこそ不完全で、だからこそ繊細で脆く反面、未来への希望を秘めた存在だ。

怪物の声をリーアム・ニーソンが好演。非常に奥深く、厳しくも慈愛に溢れた演技がしみてくる。
彼はおそらく、コナーの中に流れる母の血であり、母の父の血なのだ。
あなたの祖父に会わせたかったと言う母のセリフから、怪物は祖父の精神のやどった存在とも想像できる。
これは最期の母が怪物と目を合わせているシーンからも分かる。
ただ、単純な祖父の化身としてでは無く、コナーの内面や彼の家族の思いなどもすべて内包したような存在として描いているのが非常にうまく、謎めいて恐ろしいながらも、どこか親しみのある表情や物言いから感じられる。

コナーの4つ目の真実の物語は、彼の苦痛を終わらせたい=母の死を願う自分を認め、なぜ苦痛に感じるのかという心の奥底を思い起こさせる怪物のささやきとの邂逅が彼を癒すことに繋がる結末をむかえる。
母に死んで欲しくないが、余命幾ばくもなく辛い治療に耐える母を見ている苦痛から逃れたい。
それではなぜ苦痛なのか?
もちろん、そこに愛があるから。
なぜその真実を口にできない?
それは愛しているから。

真実は時に辛くて残酷だ。
だからこそ我々は物語を必要としている。
私は映画を見ていて、自分の祖母を思い出した。彼女は末期ガンで亡くなった。
死に瀕する彼女の命が永らえることを祈りながら、その姿を見ることの 苦痛からの解放を心の奥に持っていた私にとって、その真実はつらく未だに乗り越えたと言い切ることができないが、この映画はその傷にそっと触れて癒しを与えてくれた。
傷に触れることは痛くて辛いけれど、痛いことは傷があることを想起させ、なぜ傷に感じているのか=そこに愛があるからという大事なことをしっかり思い出させてくれる。

真実は美しく、残酷で、愛しい。
流之助

流之助