蛸

ワンダーウーマンの蛸のレビュー・感想・評価

ワンダーウーマン(2017年製作の映画)
4.2
中盤の、ワンダーウーマンが「ノーマンズランド」への一歩を踏み出すシーンがとにかく素晴らしいです。ヒーローとは(特にスーパーヒーローは)現実を超えた純粋な理想を体現する存在である。そしてそれが故に不可能を可能にする彼女の姿が人々を鼓舞する。どうしようもない現実に対して一歩を踏み出すことができる人間こそが真にヒーロー足りうるのだ、という場面(ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』っぽい)。
その直後の(ラストバトルとは違って)「地に足の着いた」アクションシーンも素晴らしい。あのテーマ曲が流れるだけであがります。

個人的に序盤から、中盤のこの場面にかけての面白さはかなりのものでした。しかし終盤の展開は控えめに言っても退屈です。それはなぜか。
この映画、ざっくりまとめると、人間の世界のことを知らなかった箱入り娘が善悪二元論的な白と黒に分かれた世界認識を改めて(世界の苦味を知って)、それでも愛の力を信じて戦うことを誓い成長するというお話だと思います。
この映画、絶対悪なんて存在しないんだ、っていう話なのにちゃんと敵役が用意されてるんです。まずそこに違和感を覚えました。それが主人公ダイアナのダークサイド(もう一人の自分)的設定のキャラクターだとしても余りにも魅力がなさすぎる。こんな敵ならそもそもいない方が上手く話しがまとまったんじゃないかと思いました。
しかもこの敵の描写が圧倒的にたりていない。ラストバトルは「何が出来て何ができないのかがわからない」者同士の戦いなので、気持ちが盛り上がりません。そこには、ドイツ軍の銃撃に対して膝をついて耐え忍ぶダイアナの肉体のリアリティはもはや存在しません。個人的に「気持ちで勝った」みたいな展開があんまり好きじゃないので、そこもマイナスポイントでした。

色々と貶しましたがラストバトル以外の部分は本当に素晴らしいです。
冒頭から中盤にかけての『ローマの休日』や『人魚姫』的な展開も面白い。全体を通して、ダイアナとクリス・パインの関係性なんかとても丁寧に描かれていて感動的です。彼はダイアナの成長に決定的な役割を果たします。スーパーヒーロー映画というより一人の女性の成長譚としてとても上手い脚本なんです。
ロンドンでの文化の違いから来る一連のコミカルな(それでいて文明批評的な)シークエンス。始めてロンドンに来たダイアナのふるまいが一々とってもかわいらしい。回転ドアやアイスクリームにはしゃぐ彼女の姿がとても微笑ましいです。彼女は、「かわいらしさ」と「強さ」とか「美しさ」が共存するキャラクターなんですね。
色々言いましたが、ヒーロー映画のオリジンとして主人公のキャラクターや成長を上手に描いているという意味では大成功だと思います。この映画を見たらみんなワンダーウーマンのことが好きになっちゃうでしょうし。DCEUにはここから盛り返していってほしい!
蛸