【ファム・ファタール】
フジテレビの深夜の放送。
前に観た時も、今回も一番印象に残ったのは、ストッキングを履くシーンだ。
この作品は、世界で初めて性転換手術を受けた実在のアイナー・ヴェイナー(後に、リリー・エルベ)と、その妻であったゲルダ・ヴェイナーの物語りを描いたものだ。
しかし、単に性の多様性を云々したものではないと僕は思っている。
重要なのは、ゲルダが題材として好んで描いた”ファム・ファタール(男を破滅させる魔性の女)”のモデルが、アイナーの中のリリーであって、その後、リリーの望みを叶えることによって、ゲルダがかつて愛したからだの性が男性のアイナーが亡くなって(滅んで)しまうという文学的な構成になっていることなのではないかと思う。
そして、リリー自らも。
内なる女性はファム・ファタールだったのか。
いや、そんなことはなかったはずだ。
この映画の公開当時、40代で性転換手術は変だとか、もともとリリーはバイセクシャルだったとか、現代の感性や憶測で映画を批判する評論家もいたように覚えている。
ただ、第二次世界大戦前でジェンダーに理解がない時代、それでもアグレッシブな医者がいて、未熟な技術や、低いモラル、そして成功の確信度が低いまま性転換手術を実行してしまうことがあったことを、僕たちは理解しなくてはならないと思う。
7年前製作の作品とはいえ、一部の映画関係者なる人物が上っ面の情報や感情だけの批判を恥ずかしげもなく、よく言ったり、書いたりするもんだと呆れたのを思い出した。
映画関係者の中には、もっと読書をするなり、社会勉強をするなり教養を身につけて、人間としてちゃんとした方が良いような人が結構いるのかもしれないと、その時思った。
この作品は、単に多様性を云々したものではない。
ところで、昔、タモリさん(だったと思う)が、ストッキングを履くと、ちょっとゾクっとして、女性になった気がしたと言っていたのを聞いたことがある。
僕は、試したことはないが、この作品を観て、それも思い出した。