Millet

リリーのすべてのMilletのネタバレレビュー・内容・結末

リリーのすべて(2015年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

ものすごい作品と出会ってしまった。

リリーを演じた主演俳優の演技がうますぎて、女性用のドレスやランジェリーの質感に全身がそれを求めている感覚、欲求や願望、抑圧に逃避。いろんな感情の表現が完璧すぎるせいで、見ている私まで全身がソワソワした。
こんなに不思議な気持ちになったのは岩井俊二の『Undo』くらいだ。
心の隙間から冷たくてドロドロした、どうしようもない苦しみみたいなものが入り込んでくる感覚。

映画序盤から乳首を隠したり、女性らしく小柄になりたい故に猫背になっていたり。足先を揃えては女らしい仕草を徹底している。

フランスでヌードの女性を見て、とにかく女らしさを観察して取り込んでいたが、その一挙一動が滑稽で、でも本当の自分になるために必死な姿は心が苦しかった。

正直ジェンダーに対する葛藤のために妻を振り回しすぎているようにも感じてしまったが、リリーの苦しみや努力を見ているとそれも仕方がなかったように思う。
お金もない中で夫のケアをして、手術の日にはきちんと付き添った。

妻は最後まで人として愛しぬいていたが、誰にでも真似できることではない。
けれど妻が夫の心の中に住むリリーを、夫を見つめながら絵にしているシーンは、リリーにとって肉体にとらわれずにいられる心の底から幸せな時間だっただろう。
ペンのはしるサッサッという音は自分を肯定してくれている証拠の音なのだから。

リリーが本当に幸せだったのかはわからない。まだ女になってやりたいことがたくさんあっただろうから。
それでも自分を騙しておさえつけたまま生きるより、納得のいく選択をしたのだと思いたい。
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