【1964年キネマ旬報外国映画ベストテン 第7位】
ゴダールが映画製作の裏側を交えて撮った作品。ミシェル・ピコリ、ブリジット・バルドーを主演に迎え、『メトロポリス』フリッツ・ラング監督が本人役で出演している。
フリッツ・ラングに代わりギリシャ悲劇『オデュッセイア』を監督するためプロデューサーに招かれた映画監督とその妻の危機を描いている。
ブリジット・バルドーが常に物憂げな表情をしているのが印象的。演じる妻カミーユは理由は分からないが夫ポールを軽蔑している。全編その「軽蔑」という感情について描いているのだが、最後までその理由は分かりそうで分からない。夫が他の女に親しげなところをみたからなのか、お金のために仕事を受けたからなのか、その両方なのか。
なんとなくアントニオーニを彷彿とさせる。この二年前公開の『夜』は職業は違えど夫婦のすれ違いの話だったし、スタジオに貼られているポスターもそれらしきものがある。ブリジット・バルドーの表情もモニカ・ヴィッティと重なるものがある。
ゴダールにしては観やすい作品ではあるが、やはり実験的なこともしている。最初のところで青、赤と色彩を脈略なく変えている。順番的にトリコロールなのかな。
カメラワークでは横移動のカメラで、ワンショットで夫婦それぞれを交互に映す技法が用いられている。夫婦それぞれの感情のすれ違いを上手く捉えていると思う。
イタリア・カプリ島の燦々と降り注ぐ太陽がまぶしく、その中で展開する映画内映画は相当前衛的なようだ。
プライドの高いプロデューサーにはゴダールの映画制作上の苦労が窺われる。
ゴダールの中では普通の映画っぽさとゴダールの独自性のバランスが上手くとれた一作では。『気狂いピエロ』くらいぶっ飛んでるのも好きだが、これはこれで観やすくてよかった。