針

軽蔑の針のレビュー・感想・評価

軽蔑(1963年製作の映画)
3.8
映画の脚本を書いて糊口をしのいでいる作家(ミシェル・ピコリ)とその妻(ブリジット・バルドー)との愛のいざこざを描いた映画論映画。今まで観たゴダールの中では一番面白く感じました(単にこちらが慣れてきただけ?)。

映画を製作する過程を映していく一種のメタ映画かな。冒頭では字幕で表示するのがまぁ一般的なキャストや製作陣などをナレーションで説明したり、キャストの女性が歩いている姿を並走して撮っているカメラそのものを画面に映したりします。「これは映画っていう作り物の世界なんだよ」ということをこれみよがしに主張してくる演出、でしょうか。
これに限らず、作中世界への没入をちょっと拒むようなところがあって、すこーし冷めた気持ちで観るのが正解の映画なのかなーというのが自分の感想(この人はいつもそうなのかもしれません)。

ドイツの巨匠フリッツ・ラングが本人役!で出演しており、いろんな警句を吐きながら『オデュッセイア』を映画化していく過程というのが物語の縦糸、それに関わる脚本家が妻のブリジット・バルドーと諍いを繰り返すっつうのが横糸という感じ?
いろんな古典文学からの引用ゼリフが多いのも特徴で、これはどういう意図なのかなー。自分的には映画的な世界の空虚さを浮き彫りにする演出のような気がしないでもない……。ギリシャとか地中海のイメージが強いのも同じくヨーロッパの伝統的な文化の引用という感じがする。

中盤に主人公とブリジット・バルドーがアパートの部屋で延々口論するシーンがあるんだけど、ここがちょっと退屈……。ゴダールの最初のミューズ兼奥さんたるアンナ・カリーナとの不仲が反映されてるっぽいですが、それを非常にリアルにそのまま映画に取り込んだのかなー。「愛してる」「やっぱり愛してない」という堂々巡りの言い合いを死ぬほど続けているので疲れてしまいました。ここをエンタメっぽく端的にまとめず、あえてダラダラ映しているのを見ると、愛の不毛さとか恋愛のくだらなさみたいなものをちょっと感じざるを得ない……。そしてそれが作り手の意図でもあるのかなと。
作中でバルドーが被る黒いカツラがアンナ・カリーナの髪型そっくりなのは見終えてから知りました……。

あとはラングが作中で「○○は解決にならない」と再三言ってるにも関わらず結末はこうなので、ストーリーで何かを語ったり観客を説得しようというタイプの映画とはちょっと違うもんなのかなぁと。

ゴダールって自分の感覚では映画版のポストモダン作家みたいな印象ですねー。次は他の時期の作品を観てみようかな。
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