つるばみ色の秋津凡夫

光をくれた人のつるばみ色の秋津凡夫のレビュー・感想・評価

光をくれた人(2016年製作の映画)
1.1
他者の灯り、他者への灯り

海の表情だけで素晴らしいカットが幾つもあった。
ただ、トムの心の雪解けに納得出来るだけの材料が描かれていない為、戦地で受けた傷の深さも、それを癒すだけのイザベルの光も感じなかった。
また、二度に渡る出産への準備不足や、アリバイ作りに墓標を抜く際の葛藤が無い事など、親の資格を感じられない描写が多々あった。
それでも晩年にて後悔の念があるなら構わないかと思った矢先に、どこまでも利己的な手紙が登場し呆れ果てた。
結果的にルーシーが健やかに育ったから良かったものの、彼女に赦しを乞える立場では無い。
そもそもあの手紙を書き残すイザベルの行為も、それを手渡すトムの行為も、法的に悪くとも倫理・道徳的には善き事をした、あの環境・状況下では仕方がなかったという我執から成るものであり、それが根底にある限り罪悪感から自らを責める事さえ甘やかしである様に思う。

利己も光と成り得る事を示すならば、それに照らされる事で生じる影を注意深く描くべきだ。
作為的な美談は救いになり得ない。