Yoshishun

光をくれた人のYoshishunのレビュー・感想・評価

光をくれた人(2016年製作の映画)
3.8
本当に子を愛せるのは、産みの親か、育ての親か……。

本作の共演をきっかけに婚約したマイケル・ファスベンダーとアリシア・ヴィカンダーの名演が光る、罪と罰、そして赦しの物語。

二度の流産を経験し、子どもとを持つことができなかった夫婦のもとに、一人の赤ん坊が流れ着く。他人の子とはいえ、彼等にとっては初めての子どもであり我が子のように大切に育てていく。しかし子どもも4歳となっていた時、夫婦の前に本当の母親が現れる。

タイトルからは想像もつかない程、重厚な作品である。救出した直後にでも本当の親のもとへ返せたはずなのに、我が子を二度も死なせたショックから、また死なせたくないという想いから他人の子を育て始める夫婦。そこまでの過程において、二人の出会い、結婚、初夜までを丁寧に描き出す。フランス戦線で身も心も疲弊しきった夫・トムに生きる希望=光を与えた愛する妻・イザベル。出会い頭に恋に落ちる、恋は突然やってくるものということを表現している。

物語の核となる他人の子との出会いまでは少々冗長であると感じなくもないが、トムが最初に光を与えてくれる存在と出会うという意味ではもっともらしい構成なのかもしれない。そして我が子のように大切に育てていくシークエンスは、微笑ましくもどこか心苦しい。出会うまでは暗い場面が多く、出会ってからは明るい場面が多いながらもトムが時折見せる表情に彼の心情、そして物語が動き出すことを物語っている。

この作品の大きな見所は、本当の親である母親が故意に我が子を捨てたわけではないこと。時代の流れに翻弄され、愛する人と共に我が子を失ってしまった悲しみが社会情勢のもとに埋もれてしまった。自分は赦しても、時代は赦してくれない……人間の無力さが滲む展開だったと思う。

ティッシュが必要なほど泣けるわけではないが、子どもを愛したかった夫婦の決断、そして長い年月を経たクライマックスに涙する人も少なからずいるだろう。凡庸なラブストーリーではなく、これは家族の物語であった。
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