明石です

ウイークエンドの明石ですのレビュー・感想・評価

ウイークエンド(1967年製作の映画)
4.2
*レビューは後ほど清書予定。

「反論するものは無知の中の無知だ」

週末(ウィークエンド)に妻の実家を訪れようとした夫婦が、長い渋滞に巻き込まれ、果てしなく続く騒音や苛立ったドライバーたちが起こす事故に囲まれるうち、まるで不思議の国に紛れ込んだかのように予想だにしない自体に巻き込まれていく。人の死体が雑巾のように転がり、銃撃戦が起こり革命が勃発する悪夢の1週間。久しぶりに当たりに近いゴダール映画を鑑賞しました。

最も旬な、というか誰のどの映画人生を切り取ってもおそらくこれ以上はないだろうというほど多産な時期、いわゆる「アンナカリーナ時代」を過ぎ、商業映画監督としての絶頂期を2年ばかり過ぎた頃の作品。たった2年だけど、この映画作家にとっては、いやむしろ彼に限らずこの時代においては大きな2年。ビートルズが『サージェントペパーズ』を出してサイケデリックに急転回し、ザフーやザ·バンドは実質的に引退に追い込まれた頃。激動の時代にあっては、そもそもが激動なゴダールはさらなる転回をみせるのも無理はない。というのはさておき、その前の時代と比較して面白くない云々はもはやナンセンスな気がする。

67年というと、ゴダールがみずから商業映画との訣別を宣言したまさにその年。思想性が前面に押し出された「政治映画」というべき作風。土嚢か何かのように無機質にごろっと転がる死体はそこではとても異質に映る。でも中盤を過ぎたあたりで、ベトナム戦争やアルジェリア紛争を批判したものであったことに気づかされる。エミリー·ブロンテや『不思議の国のアリス』のルイス·キャロルを登場させながら、血のしたたる現実を扱う。この誰の目にも明らかな矛盾を平然と取り込み、そこに誰にも文句を言わせないところが、この監督の力量だよなあと思う。

やはり作意というか、政治的な思想が見え隠れする。アルジェリア紛争やベトナム戦争への批判。そしてもちろんブルジョワ階級への批判。後半以降は、チェゲバラ風の共産主義的クーデターが物語の軸になるし。しかし詩的な台詞に象徴的な描写等々、芸術との接点は多分に残されている。派手なアクションによって語るのではなく、映像と音というあくまで芸術映画としての文法で政治的イデオロギーを表明する。商業映画から身を引いたからといって、芸術と手を切ったわけではない。それがこの映画の好きなところかもしれない。

—好きな台詞
「オワンヴィルの方角は?」
「詩的に?それとも物理学的に?」

「酷いわ。哲学者でも人を燃やす権利はないのに」
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