Jeffrey

高麗葬のJeffreyのレビュー・感想・評価

高麗葬(1963年製作の映画)
3.0
「高麗葬」

冒頭、今までの話とは逆行された舞台背景。母の再婚で山中の寒村にやってきたグリョン、彼と十人の義理の兄弟、確執、貧困と飢餓、目を背けたくなるような人間の本質、骨の山、呪術、メタファー、権力、芋、殺し。今、高麗時代と朝鮮時代と原始時代が混合されていく…本作はキム・ギヨンが一九六三年に監督した韓国版楢山節考と言えるかどうかはさておき、姨捨山的な作品である。今回BDBOXを購入し初鑑賞したのだが、ギヨンの世界観が前作に引き続き保たれている映画で、飢餓になると七〇を超えた老人を山に捨て、山の神に差し出すことで雨を祈る高麗時代の風習が元になった民話で、日本の「楢山節考」との類似も指摘されているみたいで、韓国の歴史学者の間では親孝行の大切さを教え込むための作り話とされているようだ。しかしながら主題としては姨捨山と言う感じでは無い作品である。

この作品も彼の傑作として名高いようだが、正直自分的にはいろんなものが混ざっていてわけのわからない作品だった。というのも彼が今までに描いてきた作品とはまた異なり時代背景がさらに古くなるいわば逆行させた時代劇であると言う点は別に良いのだが、その古い時代とは打って変わって現代的な衣装や習慣、文化と儀式が映像にあるため果たしてこれは朝鮮時代なんじゃないかと思ってしまう反面、呪術的支配のような時間枠もあるため、さらに原始的な時間枠を描いているとも見られる。タイトルからすると高麗時代なんだろうけど、中身を見るとそんなことも無いように感じてならない。よく韓国では女性の取り扱いが酷いと日々ニュースにあるが、この作品でも食料は女を得るための交換手段として描かれていてびっくりした。それと飢えをしのぐための水や食料(芋)をめぐる戦いがあるのだが、芋ばかり食う場面だとベーラの「ニーチェの馬」の老人を思い出してしまった。

まぁ、いろいろと独裁政権下の中で表現が厳しかったのか、色々とメタファーを取り入れているところは仕方ないとして、映画全体的には前作同様にクライマックスはやはりすごいインパクトが印象的だった。十人の異母兄弟を殺し、権力の象徴である古木とともにムーダンを倒すのは脳裏に焼きつく。これも全て混沌に陥った世界で最低限の道徳心を保つために行われたー種の防衛反応だったのだろうか、民主化に向かって前進していた当時の韓国の絶望が感じ取れた。とにもかくにも監督が撮影していた当時の韓国と言うのは非常に行きづらい場所だったんだなというのが芸術表現とされている映画からも非常に伝わってきた。軍事政権と戦う学生たちを象徴するデモ歌など、色々と考えさせられる映画でもあった。

さて物語は、母の再婚で山中の寒村にやってきたグリョン。彼と十人の義理の兄弟との確執を中心に、貧困と飢餓、目を背けたくなるような人間の本質が暴け出される。強烈な登場人物たちと美術に圧倒される映画として有名だ。この作品も本編中に映像が欠落した箇所があり、説明字幕が付いている…と簡単に説明するとこんな感じで、こんなに映像が欠落したりしていて見ていてゲンナリする。なんでこうも映像が欠落してしまうんだろう…。この作品もほぼ終盤の骨だらけのシークエンスは印象深かった。
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