うめ

ファイティング・ダディ 怒りの除雪車のうめのレビュー・感想・評価

3.9
 ステラン・スカルスガルドとブルーノ・ガンツ目当てで鑑賞。ノルウェーの小さな町でスウェーデン移民ながらも、除雪業に対する真面目な働きぶりで市民賞を貰う初老の男性、ステラン・スカルスガルド演じるニルス。だが、彼の息子イングヴァルが町中で薬物の過剰摂取によって亡くなる。ニルスは薬物なんてあり得ないと疑うも、警察は取り合ってくれず、妻は息子の死に憔悴しきり。だが葬儀後、薬物の運び屋だった息子の友人が現れる。彼が言うには、イングヴァルは自分が運んでいたコカインから取った少量のコカインに手を出しただけだと。そこで、ニルスは自らの手で息子の敵を取ろうとする…ここまで観ていて、「あぁ、これはきっと暗く哀しい復讐劇になるんだ」と思っていたのだが…ん?ナニコレ?じわじわくる、笑いが。じわじわくる…そう、ただの復讐劇じゃないんです、これ。
 まず設定が面白い。二つのギャングが登場するんですが、このギャングのボスがちょっと変わっている。まずはイングヴァルを殺したギャングのボス、通称「伯爵」。彼は菜食主義で、息子の朝食に果物を出さなかったという理由で部下にキレる。またその息子の親権をめぐって、度々元妻と言い争いをするのだけれど、結構言い負ける。で、元々彼の父親が築いた組織を受け継いでいるバカ息子なんで、まぁリーダーシップがない。もうひとつのセルビア系ギャングのボス、通称「パパ」。(ブルーノ・ガンツが演じている。)彼はすっかり老人で、あまり大きな声が出せないため部下に指示を出すときに、ひとりの部下の耳元で話す。スケート場でスケートする人を物珍しそうに眺めたり。(ちなみにその後ろで部下たちは楽しそうに雪合戦している(笑))その他にも、いくつか面白い設定や行動があって、復讐やギャングの抗争が行なわれているはずなのに、いちいちくすっと来てしまう。
 あと何と言っても、あのR.I.P.のような演出!(笑)この画面が最初に出たときに、「あぁ、これ絶対、普通の復讐劇じゃないわ」って思った。文章で説明しても、そんなに面白くないのでその画面は是非、本編でご確認を。
 あとはステラン・スカルスガルドとブルーノ・ガンツがシブい!こんなくすくす笑えるのに、真顔で復讐に燃える二人…ツーショットのシーンがあるのですが、並ぶとやっぱり貫禄ありますね。コメディ要素があるのに、ちゃんと「息子の敵をとる父親の姿」っていうのを終盤、体現してて…うん、なんか堪りません!
 それからストーリーも結構よくて。なんかシンプルなコーエン兄弟のストーリーみたいです。(主人公のもとから話が逸れて、予想外の展開になっていくイメージ。)ある程度、予想できてしまうけれど、面白設定が最後まで活かされていて良かった。またニルス、伯爵、パパそれぞれに息子の存在があって、息子のためといって行動が起こる展開も良かった。どれか一つでも父子関係がなかったら、これだけ面白くなっていないだろう。隠れた脚本の妙かな。ただノルウェーやスウェーデン、デンマークにセルビアの民族気質ネタがちらっと出るところは、それぞれの気質を知らないのでわからなかった…こういうネタに出くわすと毎回歯がゆい!
 息子の敵をとるために銃を撃ちまくる、闘う親父の姿やかっこいい撃ち合いや騙し合い満載のギャングの抗争に飽きた方にはお薦めです。北欧らしく音楽も映像も派手ではないが、ハマる人にはハマる作品だと思います。この作品が好きな人とは気が合いそうだな(笑)

ちなみに鑑賞前は「なんだ、この邦題!?」と思っていたのだが、観て納得。「除雪車」が入っているのもなかなか良いかな。
うめ

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