みずけ

ブレンダンとケルズの秘密のみずけのネタバレレビュー・内容・結末

ブレンダンとケルズの秘密(2009年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

デフォルメされた簡素な線で描かれる人物たちがいきいきと動き、森のなかでは装飾写本の組紐文様のなかに迷い込んだよう。特に森の描写は、大きな木々の高低差と、奥深い森の奥行き感がとてもうまーく表現されていたように思う。

ストーリーはやや中途半端。ファンタジー作品ではあるけれど、いちおう史実に即した部分もある。なので視聴者的には侵攻してくるヴァイキングをやっつけたいけど、やっつけるわけにもいかない(撃退してしまったら歴史が変わってしまう)。それに長い目で見れば侵略者であったヴァイキングも、その後アイルランドに定着して人的にも文化的にも混交していく過程をたどる。この文化のまじりあい、融合、というのもこの映画のテーマのひとつなのかな。

聖パトリクスがアイルランドでのキリスト教布教の際に、土着文化をうまく取り入れたというのは有名な話。この作品がそれにならったかどうかはわからないけど、ブレンダンたちはキリスト教側、アシュリンやクロム・クルアハは土着文化側と、きれいに対比の構図になって両者が接触する。土着文化側にもふたつの側面があり、アシュリンは比較的好意的に接しているけれど、逆にクロム・クルアハは嫌悪をもって「荒ぶる神」の姿を見せている。

そしてブレンダンがクロム・クルアハからあるモノを”奪う”くだりは、アイルランドにおいてキリスト教が異教の神ですら取り込んでいったことの暗喩だと思う。そうやってアイルランドのキリスト教は形作られていったんじゃないだろうか。
キリスト教にとって、異教文化は「闇」。そして異教徒たちの「闇」をキリスト教の「光」であまねく照らすことが、ブレンダンの在籍した修道院の人々の究極的な目的であるし、その行動もすべてキリスト教のため。なのでその光を伝える聖書の装飾写本である『ケルズの書』が何をおいても最も優先される、と彼らの考え方は意外にシンプルだったりする。これをふまえると、作中の(見捨てちゃったよ……)というかなりアレなシーンも説明が……つくかなあ、どうかなあ。

ええと、アシュリンちゃんがあの長い銀髪をさらりと耳にかける仕草のシーンは超絶かわいかったです。はい。
2019/04
みずけ

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