りっく

ラ・ラ・ランドのりっくのレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
4.4
映画の都ハリウッドへ向かう高速道路の渋滞。まるで夢の順番待ちをするかのような光景から、圧巻のミュージカルシーン、そしてここぞ!という絶妙なタイミングでバシッとタイトルクレジットが表示される冒頭でまず心を掴まれる。

そこで繰り広げられるのは、互いに女優とジャズの店を開きたい夢を追い求めてハリウッドにやってきた、ある男と女の夢追い物語である。思わず身体を揺れ動かしたくなる衝動に駆られる軽快さと、観客の心の琴線を震わせるようなスコアが全編にわたって鳴り響く。全ての楽曲が見事で、この時点でミュージカル映画として成功している。

いわゆるハリウッドで幾多も作られてきた夢と挫折と栄光の物語ではあるが、単純明快なサクセスストーリーではない。印象的な場面がある。男と女が出会い、街を歩いていると通りで映画の撮影をしている。憧れの光景は、だが所詮作り物の書き割りの世界で、その撮影場所のすぐ隣は墓地になっている。何かを得るには、何かを諦め、捨て去り、葬らなければならない。一見サラッと描かれるこの光景が、全編に効いている。

本作は欠点も多い映画であることは間違いない。ふたりは容姿もよく最初から才能を兼ね備えている。だからこそ、栄光への階段を登り始めるきっかけとなるエピソードが欲しい。要するにふたりは夢への想いは熱いものがあるが、本編中で目に見える努力を何ひとつしていないのだ。

また、デミアン・チャゼルの演出も古き良きアメリカ映画への愛はたっぷり感じられるが、技巧に酔いしれている箇所が多々あり、そこがあまりうまく機能していない。

例えば、プールサイドでのパーティーシーン。カメラはプールに入り、プールサイドで踊る人々を360度パンで映し、最後は打ち上がる花火を捉える景気の良い一連のシークエンスだが、ただ慌ただしいだけである。

また、プラネタリウムでの幻想的な場面も寄りと引きのバランスが悪いため、特に引き画の際に宙を舞うふたりが滑稽に映ってしまう。確かに音楽のリズムとカットのリズムが気持ち良くシンクロする場面の軽快さは眼を見張るものがあるが、演出脚本ともに雑さはかなり目立つ。

だか、そんなマイナスを吹っ飛ばすほどライアン・ゴズリングとエマ・ストーンがとにかく素晴らしい。お互いに苦渋を舐めながらも、この世界の片隅でワンチャンスに賭けてきたふたり。客観から主観に転調しスポットライトを当てる演出が、そんなふたりを見つけ引き寄せる。純粋に映画の素敵さ、そして多幸感に浸る。いつまでもふたりを見続けていたいと思わせてくれる。

夢を見るとはどういうことか。かつて自分が抱いていた夢を書き換えて叶える事に価値はあるのか。そして、夢に向かって共に頑張ってきたパートナーと一緒に見る夢の光景はどんなに素晴らしい景色だったのだろうか。自分の夢を叶える事で、また別の夢を切り捨てる。夢を叶えた人間の周りには、また別の家族や友人がいて、そこにはもう自分は必要ない。でもそれは幸せなことではないか。

ラストのライアン・ゴズリングとエマ・ストーンのカットバック。互いに夢を叶えた者同士が視線を交わし、お互いの今までの苦難の歩みを慰労し、そして現在地を祝福する。全ての想いが集約される、ふたりの表情に涙が止まらない。「セッション」もそうだったが、デミアン・チャゼルは様々な技巧は凝らすものの、最後は俳優の顔を信頼し、そのある種の共犯関係で結ばれたふたりの表情をたっぷりと見せてくれる。見事な着地、見事な後味。傑作である。
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