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ワイルド・スピード ICE BREAKのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 アメコミ映画以外では、驚異的な興行収入を続けるモンスター・ヒット『ワイルド・スピード』シリーズ第8弾。前作のラスト、仲良く並走していた2台の愛車が枝分かれしてゆく姿を、上空のヘリが俯瞰で据えたロング・ショットの美しさの余韻と詩情。シリーズ15年間のポール・ウォーカーの活躍とドミニクとの友情が走馬灯のように蘇り、思わず涙が溢れるような名場面だった。主人公の一角がこの世を去り、ファンの間でもシリーズ打ち切りへの賛否が議論される中、ユニバーサル・ピクチャーズとヴィン・ディーゼルは新トリロジー3部作でチーム・ドムの前進の後、有終の美とすることを決める。冒頭、キューバ・ハバナで婚前旅行を楽しむドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)とレティ・オルティス(ミシェル・ロドリゲス)は、地元の有力者である従兄弟に唯一の財産である1953年型シェビー・フリートラインを借金のカタに取られそうになる若者を行き掛かり上、助けることになる。フロント部分が炎上したシェビー・フリートラインをバック運転でかっ飛ばすドムの姿も素晴らしいが、カラフルなヴィンテージ・カーが所狭しと並べられた様子は、前作以降実現したアメリカとキューバの国交正常化という今をまざまざと見せつける。監督であるF・ゲイリー・グレイはこの導入部分だけは、ストリート・レースに賭ける男たちの生き様というシリーズ物の伝統を見事に継承する。

 その反面、脚本そのものはシリーズ史上最も安直で、残念ながら極めてIQも低いと断言して憚らない 笑。『スター・ウォーズ』シリーズのアナキン・スカイウォーカーのように、ドミニクはファミリーとの連帯と見えざる力との葛藤の末、ある明確な理由で反体制側に寝返るのだが、これだけの最強チームを誇る男ならば、最初から真実を告白し、チームで戦いを挑んだ方が理に叶っていただろうが 笑、物語の都合上(行き掛かり上)、道化師を装うことになる。その意味では出発点からまったく必然性がない大風呂敷を無理矢理に拡げていると言っても過言ではない。ポール・ウォーカー亡き後の展開としては相当に苦しいのだが、ドミニクの心変わりよりも数倍驚いたのは、むしろデッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)の改心の方だろう 笑。子煩悩な父親だったポール・ウォーカーの爽やかな笑顔を失った一方で、極端に前景化するのは筋肉に滴る汗が光るハゲ&マッチョ3巨頭の『エクスペンダブルズ』を越えるような極端なマッチョイズム回帰である。89年のアメリカと旧ソ連の冷戦終結から数えて実に28年、すっかり忘れていた頃にICE BREAKと称して、第三次世界大戦と核爆発を起動させる前時代的な悪女の登場には、盛大にツッコミが入る 笑。私はてっきりサイファー(シャーリーズ・セロン)は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のフュリオサ・ジョ・バッサのように、砂漠ならぬ氷の最前線をひた走る女闘士だと思ったのだが、モニター前で指示を出す意外な展開にはやや拍子抜けした 笑。

 真っ先に『ダイ・ハード』シリーズのジョン・マクレーン部長刑事の再来を思わせるハゲ&マッチョ3巨頭の畳み掛け、ドイツをきっかけにロシアへと繋がる展開も『ダイ・ハード』シリーズを想起せずにはいられない。いつの間にかドライビング・テクニックだけでなく、戦場の最前線に立つ最強の傭兵スキルを手に入れたチーム・ドムの面々の無双っぷりがとにかく素晴らしい。前作から本隊に合流したカート・ラッセルの部下であるクリント・イーストウッド二世のリトル・ノーバディ(スコット・イーストウッド)の起用は、『父親たちの星条旗』で共演した親友であるポール・ウォーカーの後釜としての今後を期待させるし、前作でのカート・ラッセルの起用同様に登場するベテラン女優には心底驚かされた 笑。NY中の無人車がラムジー(ナタリー・エマニュエル)の「神の目」により突如無人で駆動するゾンビタイムの圧倒的な説得力にはしばし呆気に取られた 笑。監督のF・ゲイリー・グレイは前作『ストレイト・アウタ・コンプトン』でもファミリーたちの友情と裏切りを繰り返したが、今作でもファミリー(=チーム)は離合集散を繰り返す。心底幼稚な脚本に対し、バカ真面目に取り組むチーム・ドムの面々の地球の平和を考えた並々ならぬ努力を見ると、物語上の綻びや短絡的な展開の穴を探す自分自身がバカらしくなる。ヘッドフォンを付けたあの子を守る殺し屋の牧歌的な姿に安堵しつつ、ポール・ウォーカーという支柱を失ったチームメイトのその後が今作にはしっかりと刻印されている。最新のVFX技術を駆使し、前作『ワイルド・スピード SKY MISSION』の貯金も食い潰すような、未消化な穀潰しの物語ながら、ハゲ&マッチョの最強トライアングルの形成にはシリーズの未来を予感させる。
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