ボブおじさん

マネー・ショート 華麗なる大逆転のボブおじさんのレビュー・感想・評価

3.9
アメリカ経済が空前の住宅市場ブームに沸き返る中、いずれバブルの崩壊が起きることを見越して世間とは逆目を張る投資家の大物ギャンブラーたちがいた…

映画「マネーボール」の原作者でもあるM・ルイスの実録ノンフィクションに基づく世界経済を襲ったリーマンショックの裏側でいち早く経済破綻の危機を予見し、ウォール街を生き抜いた〝クセ強め〟の4人のアウトローたちの物語。

2005年、アメリカ経済が空前の住宅市場ブームに沸き返る。だがそれを支えるのは返済の見込みのない低所得者への住宅ローン(サブプライムローン)を含む金融商品であり、このブームは数年以内に債務不履行に陥る可能性が高いバブルだった。

これだけ聞くと難しい経済用語が飛び交う社会派ドラマかリーマンショックによる低所得の労働者階級の悲劇として描かれそうな話だが、そこは「バイス」 のA・マッケイ監督。なんとこの話を全編に痛烈な皮肉や風刺を込めた喜劇として映画化してしまった。

値上がり続けると信じられてきた住宅市場の暴落に賭け、ウォール街を出し抜いた強者をクリスチャン・ベール、スティーヴ・カレル、ブラッド・ピット、ライアン・ゴズリングら〝ビッグネーム〟が演じスリルと見応え満点の痛快作に仕上がった。

しかも分かりにくい金融・経済の話をマーゴット・ロビーやセレーナ・ゴメスが〝特別講師〟として分かりやすく説明してくれるサービス設計が為されており、下手な経済専門書を読むよりサブプライムローンやCDO(債務担保証券)という金融商品について理解することができる。

2008年のリーマンショックによる世界金融危機は日本を含む全世界にも社会的・経済的に深刻な影響を与えた。サブプライムローン問題により、アメリカでは800万人が失業し、600万人が家を失った。映画の中でも移民家族が家を追われる場面が描かれている。

そのことを踏まえて考えると、登場人物がいずれもこの危機を金儲けの機会と捉え、桁違いの額の会話が飛び交うアプローチに対して否定的な評価もあると思う。だがそんな事はこの監督、百も承知で作ったのであろう。

格付け会社は根拠も無く〝玉石混交のCDO〟にAAAの格付けをする。債務者のみならず債権者までも格付け会社の根拠の無い格付け査定を信用する、中身も知らずに。この腐った魚を混ぜたシチュー(CDO)をなんの疑いもなく売っていた金融機関の何と無責任なことか。

〝何も知らないことが厄介なのではない。知らないことを知っていると思い込むのが厄介なのだ。〟

全編見終わると冒頭のマーク・トゥエインの言葉がこの顛末の全てを物語っているように感じる。

サブプライムローンで人生が狂ってしまった人が大勢いるのに、敢えてそこは深入りせず、遥か上空で行われていた〝腐った米国金融界vs怒れる(イカれた)天才投資家達〟に焦点を絞った演出は個人的には気に入っている。

ただし、共感できる人物は1人も出てこない。バブルに踊った奴らは泡と消え、まともな人は騙された。ごく一握りのまともじゃない奴が勝ち残ったということか?

そういえば制作に、あの有名俳優が名を連ねていた。多くの人が悲嘆に暮れる中、勝ち誇ったように雄叫びを上げる若い投資家を諌めた、この映画で唯一まともないい奴を演じた男。

ブラッド・ピットさすが抜かりなし(^^)