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悪意の眼のnetfilmsのレビュー・感想・評価

悪意の眼(1962年製作の映画)
4.0
 孤独なフランス人ジャーナリストのアルビン(ジャック・シャリエ)は、ドイツ・ミュンヘン郊外の村に住む著名な小説家アンドレアス・ハルトマン(ウォルター・レイヤー)に関する記事を書くためにドイツに派遣される。アルビンは同じ村にアパートを借り、ひょんなことからハルトマンのフランス人妻エレーヌ(ステファン・オードラン)を通じて作家と知り合い、ひいては夫婦の友人となる。ブルジョワジーの男と貧しい男との対比。そして著名な小説家と下世話な書き手の対比は初期作品から通底しており、最初はアンドレアスに近付くはずが徐々にアルビンは奥方のエレーヌに魅了されてしまう。70年代に延々と繰り返され続けるヒロインのエレーヌという記名はいざ知らず、安住すべき住まいへの侵犯をクロード・シャブロルはほとんど全ての作品で繰り返しており、シャブロル作品において主人公の車がブルジョワジーの豪邸の庭に停車する瞬間を何度目撃したかは知る由もない。遺作となった『刑事ベラミー』の冒頭部分で不吉な訪問者が庭を横切った様に、今作においてもアルビンは巧妙にエレーヌを半ば騙しながら、アンドレアスの懐に入り込もうとする。

 家主であるアンドレアスもアルビンの何に惹かれたのかさっぱりわからない異様な笑い方を何度も見せる。はっきり言ってイカレタ家主であることは間違いないのだが、ブルジョワジーの令嬢たるエレーヌの退廃的な様子にアルビンは徐々にのめり込んで行く。貧乏であろうが何だろうが、私は自分の生き方を恥じていないという主人公の独白の威勢は随分良いが、その実チェスで負けた時やカナヅチを見られた際の尋常ではない狼狽ぶりには笑った。上映後の講義で大寺氏は、ヒッチコックの『裏窓』や『レベッカ』を念頭に置いたと語っていたが確かにそうで、主人公の病理=ストーカー気質が中盤以降かなり気持ち悪いフェティッシュな世界に連れて行く。映画は常に見る者とそれを見つめ返す者とのドラマだと誰かも言っていたが、中盤の狂言廻しのような狂った車破壊からの修理を経て、あそこで誇示すべき男性性が修理工レベルのテクニックだったことにあきれ返ると共に、探偵ばりに主人公が撮った写真が何気にズーム・アップしているのも火曜サスペンス的で心底とち狂っている。この時代のシャブロルは興行的な失敗を繰り返した負の時代と人は言うが、トリュフォーの『突然炎のごとく』の数か月後にこんなに捻じれた奇妙な三角関係を見せられて、当時のフランス国民は唖然としたに違いない。
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